雨は強くなったり弱くなったり。
大豆生田(まみゅうだ)と、カーナビは発したと思う。
松屋銀座の別の店舗に勤めるベテラン店長と同じ字だけれど、少し読み方が違う。
そんな交差点を左に曲がり、まっすぐ上に伸びた道、住宅街を進むと、佐野さんの事務所に着く。
引っ越したと聞いていたが、建物も新しく建てて、元の場所に戻ったようだ。
佐野さんは、農業をやるなら明野だろう、と法人を立ち上げ、新規参入した方。
明野(あけの)は、標高900~1200mほどの斜面にある。
日本一日照時間が長いことで知られる。
そして、りょくけんが大好きな赤土。
産地を探している時に、当時の上司に「赤土が見つかりません!」と携帯電話で泣きついたのを覚えている。
そうしたら、「山の方を見てみて。赤松がない?」
赤松は、赤い土を持つところに生えるらしい。
それまで、松茸が取れる松くらいに思っていたが、そこが赤土であることを示唆する。
上の方の松を見ると、肌が赤い。
赤松だった。
「あります、あります、赤松!」
「じゃあ、もうちょっと探してみたら。」
その山の頂を越えたら、大規模な赤土の、整備された畑がいくつもあるのが見えた。
それから、限られた情報を探して、たどり着いたのが佐野さんだった。
急に立ち寄ったので、佐野さんはその前のお客様を畑に案内しているところで、私はしばらく、いつもやり取りしているベテラン事務員さんと話した。
「何十年ぶりかしら。」
「いやいや。でも十数年ぶりくらいです…。」
事務員さんは依然会った時と変わらなかった。
「もう雨ばっかりでね。」
10分ほど話していたら、佐野さんが戻っていらした。
ズッキーニを手に持って。
「5反探し回って、これだけ。」
佐野さんの主力はレタスである。
ただ、低温で、曇天で、雨が多くて、レタスの状況は芳しくない。
「史上最低の年だね、今年は。」
「はい、、、きれいだなと思って出荷しても、葉脈が茶色になっていて、何枚剥いても、そうなっている時があります、、」
偽らざる状況かもしれない。
だから、ロメインレタスに切り替えたりもした。
結球しているレタスの方が、より難しいからだ。
ズッキーニは、ここのところの雨で、病気が発生。
さらに低温にあたって、受粉を助ける蜂が働かなくなってしまった。
「もう、顔も忘れてたよ~」と佐野さんが私を見て笑う。
「永田さんはどうしてるの?」
「売り上げはいくらになった?」
「従業員数は?」
会社の代表らしい質問が少し続いた。
もう少し私を試してほしい…!
「大変だね。じゃあ。」
少し真面目な顔で、しみじみと言われた。
実際大変だ。
野菜という商材の中で、小売業をメインとした業態で、会社を継続するのは、14年やってみて思うが、大変だ。
もう少し話がしたい。
でも、実は、借りていたレンタカーの、次の予約をしている方がいて、16時半には返却しなくてはいけない。
「またゆっくり来て。」
そう言ってくださった。
そそくさと事務所を出て、車に乗り込んだ。
「大変だね、じゃあ。」
あの短い質問の中で、さっとその言葉を掛けられた。
もう少し教えを乞いたかったな。