「帰ってこないですね。」
大柄な男性とは、二人きりで長い事、お話した。
手に持った送り状も気になったのだろう、
「ちょっと行ってきます。」と告げて、作業場にしばらく一人になった。
雨は相変わらず強くなったり弱くなったり。
岩木山の方向は曇ったまま。
30分くらい経っただろうか。
佐藤さんが軽トラに乗って帰って来た。
とても懐かしい。
電話から届く声は全く変わってなかったけれど、髪はロマンスグレーに。
体躯はすっかり引き締まった。

「あれ。大森さん? なんか雰囲気変わったねー!」
夏なので、私は短髪にしているためだろうか。
いやいや、単に、十数年ぶりにお会いするからだろう。
人懐っこい、笑顔のニュアンスも変わらない。
スマートフォンで弊社のホームページのトップの、佐藤さんが写った写真を見せると、懐かしそうに
「一番頑張っでだ頃だ!」
とほほ笑んだ。
「もう、すっかり倅に任せてるからさ!」
「ーあ、やっぱり息子さん!」
話しているうちに、そうなのではないかと思っていたが、頭がうまく動かず、聞けずにいた。
「そうそう、俺はパソコンも何もできないから、全部倅に。あと関東にいる娘も夏の間は来てるんだ。」

大柄な男性は、息子さんだった。
目元が似ていると思ったものの、昔のメガネ屋のCMじゃないが、眼鏡は顔の一部。
眼鏡をかけた父 佐藤さんと、眼鏡なしの長男 佐藤さんが親子であることには今一つ確信が持てなかった。
「市街に倅も家を持ってるんだげど、夏の間は、こっちに泊まり込み。経営も何も全部任せてるから。」
そう語る佐藤さんはとても嬉しそう。
「今年は雨が多ぐでね。作は良ぐねんだ。9月20日ぐらいまで植え付けではいるんだけど、そこら辺の畑が雨で浸がっちゃっで。酸欠になって、大ぎぐならねんだ。」
「はい、先ほど息子さんに聞きました!でもそうですか、代替わりしたんですね。」
農家さんの代替わりは嬉しい。
販売者として、一つの責任を果たした気になるからだ。
「今年は先端がないやつだとか、短いやつが多いから、レトルトに回すものが多いんだ。」
「先ほど、息子さんに頂いたやつですね。」
「うん?あれは違うんだ、あれは“茹で”だ。レトルトは違う、ちょっと待っでで。」
佐藤さんが奥から持ってきたのはレトルトで真空パックになったもの。
それより少し前に、息子さんが持ってきてくれたのは、文字通り、茹でたてのとうもろこしで、特殊なラップに包まれた、今、まさに食べるためのものだった。
後でこれを食べたのだが、ぷりぷりっで、外観も美しく、味も、とても美味しかった。
東京で、青森から送られてきたものを食べても十分に美味しく感じたのだけれど、やはり産地で食べるとうもろこしは美味しい。
「んでね、あんまりゆっぐりでぎなぐで。今らそのレトルト用のとうもろこし、加工場さ持ってげねどいげねんだ。」
「あ、かしこまりました。すみません、お忙しいところ。」
「お前、大森さん(を)軽トラで畑連れでっで。」
雨のせいもあるだろう、今日は店じまい。
でも、息子さんは嫌な顔一つせず、私を軽トラの横に乗せ、とうもろこし畑の中心地まで連れて行ってくださった。