暑い日が続く。
東京駅で新幹線に飛び乗り85分。長野駅に着く。レンタカーを借りて、北上し30分ほど。須坂市に着いた。標高は330mほどだが、ややひんやりした風が吹き、気持ちが良い。もう少し走れば、新潟に入るような地理だ。
畑の場所が分からず、携帯を鳴らしてみる。
「おお、近くだ、ちょっと待ってください。今すぐ行きますから。」
しばらくすると、チューンナップされた軽やかで、とてもきれいな軽トラに乗って、吉池さんが現れた。真っ赤なシャツに、やや長めの髪を後ろに束ね、屈託の無い笑顔が印象的な、おしゃれな農家さんだ。
そこからすぐの所に、選果場※があり、1時間くらいだろうか、お話を伺い、その飽くなき情熱に触れた。
「『無袋の黄金桃』が欲しいって言っていたけれど、うちので本当に良いの?」と吉池さん。
「どういうことですか?」
「黄金桃には、有袋の黄金桃がある。白い肌に仕上げてきれいにしたもんだよね。一方で無袋もある。でも、無袋にも、収穫の10日間くらい前まで袋をかぶせておいて、取り除いた無袋もある。シルバーシート※を敷いて、満遍なく赤くして、いかにもおいしそうに育てたものもある。うちのは、そういうんじゃなくて、まばらに黄色が残ってるけれど、良いの?」
「?」
「うちのは、一切、一度も、袋をかけたことが無い、正真正銘の『無袋』なんだ。だから白の肌にも、赤にも、きれいに一色には染まらない。でも、味は絶対こっちのがうまい。」と吉池さん。
「おお、お前、そこのちょっと切って食べてもらえ。」とそばで静かに話を聞いていた奥さんに、吉池さんが言った。
私は、長野名産の丸なすと味噌が入った『おやき』を食べていたのだが、すぐに食べ終えて、奥さんが切ってくださった黄金桃の1片をほおばる。
甘い!
外観から固そうに見えたが、十分にやわらかく、繊維質がほとんどなくて、歯に絡まない。ほのかな酸味があり、糖度がかなりある。
おもむろに糖度計をポケットから取り出しで測ると、18.5度を示した。
桃は、14度あれば、かなり甘い桃だから、「とても甘い桃」と言って良い。
「吉池さん、18.5度ありますよ。」
「おお~そうかあ?うちにも糖度計あるが、もう何十年も測ったことなかったや。おお、ほんとだ。」と糖度計を覗き込みながら吉池さんがつぶやく。
「ところで、施肥はどうされているんですか?」と聞くと、
「何十年も何もやってない。」とさらり。
「草が生えるだろ?伸びたらそれを刈って、土にすきこむ。それを繰り返しているだけ。」
肥料をやらない方法は、りょくけんでは最も理想としているやり方。多くの農家さんが味は肥料が決める、と考えがちなのだが、それは、味を「作る」やり方。本来のその果実が持つ美味しさは、無肥料でこそ、成り立つ。
と思う。。。
「畑を見させていただいても良いですか?」と吉池さんご夫妻と一緒に畑に向かう。
たわわに実り、赤みを帯びた桃がとても美しい。一見すると、白桃と区別がつかない。よくよく見ると、地肌に黄色みがあり、黄金桃と分かる。桃がたくさんなっているので、枝が垂れ下がっている。葉は小さくまとまり、色が薄い。樹や葉が肥料過多になっていない証だ。
「農大のセンセが来てね。土壌持っていって分析したんだわ。そしたら、『本当に、肥料を何も使っていないんですね。』って。『だから言っただろ、使ってねえ』って。『よく実がなりますね。』ってまだ言うんだけど、『だから、見てみろよ、実際になってるだろ。』って言ってやったんだ。」
まだまだ45歳と若い吉池さん。農業高を出てすぐ20歳で就農したのだとか。そのころから、黄金桃を作り続けて、25年。本当に美味しい桃に感服。
帰り際に、吉池さんの、両親にお会いした。つやつやした肌で、まだまだ元気。
「お若いですね~。」と言うと、
「まだまだ外見だけは若くしようと努めてますわ。お客さんがいらしてるのに、こんなランニングで申し訳ないんですが!」とお父様。
「消費者も大事ですが、わしら生産者も、ぜひ大事にしてくださいな。」
それが、中間業者たる我らの使命。
「また、売場での反応とかお客様の声もお知らせいたしますね。」と言って、お別れした。
車が見えなくなるまで、ずっとご夫婦お二人で見送っていただいてしまった。豪快で気さくな中に、繊細な心遣いの農家さんだった。
またひとつ良い出会いだった。
■黄金桃 長野県産 1玉 630円(税込) ~9月10日くらいまで
※選果場 …収穫物の傷などを確認し、箱詰めする場所。倉庫を兼ねている場合が多い。
※シルバーシート …銀色のシートで、太陽光を反射し、桃に光を当てる。シートを当てないとまったく赤くならない品種もある。