やや細い道を通って、どんどん上がっていく。
舗装はされているので、山道というほど山道ではなかったけれど、そこそこ細い。
「やしろはね、昔、お城があったみたいでね。それで、やしろって言うの。」
「へえ~。」
私は歴史が好きなので、城も好きだ。
誰の城だったんだろ?
このあたりだと、今川? 徳川? そしてやしろは、八城※?
少し進むと、左手に公民館が見え、その目の前が開けて、1町くらいだろうか、畑が見えた。
「お。」
東と西に山を抱えた、ほぼ盆地。
50~100mくらいは上ってきたので、冷え込みもあるだろう。
ほどなくして、白い軽トラが一台やってきた。
生産者の山下さんご夫婦だった。
今期は、蕾菜(つぼみな)でお世話になった。
中国大陸ではいくつかの品種が存在していて、国境?というのか、福岡県で積極的に導入し品種も改良し、
”博多蕾菜”の商標で販売に力を入れている。
ザーサイなどのアブラナ科の野菜の一種で、脇芽を食べる。
ほのかに辛みもあるが、加熱するとうまみに変わって、美味しい。
漬物にしても良い。
容姿が、山菜に似ていて、季節的にも冬から春のものなので、銀座店でも人気だった。
いくつか、畑が分かれており、山下さんご夫婦によると、今いる場所ではなかった。
目の前には、レタスととうもろこしが植えてあり、白い寒冷紗がトンネルで引かれており、広い畑だけれど、丁寧な仕事をしていると思った。
「ここはね、隣の森町の作型を真似していて、お米の後にレタス、レタスの後にとうもろこし、ってリレーしているの。お米の時の残肥をレタスが吸収して、最後にもろこしが全部吸ってくれるから、良いの。」と奥様。
「なるほど、森町はその作型で成功してますもんね。とうもろこしは、とても人気がありますし。」
「そう、お米はね、”ひめのもち”っていう品種を、祖父から受け継いでね、作り続けているの。このあたりじゃ”志田餅”がほとんどなんだけど。」
話も興味深いけれど、すごい…!、お話が上手な奥様だ!
旦那さんは周りの空気を図るように、うなづいたり、一言二言入れたり、終始、にこにこしている。
「あ、息子たちも来た。」
私たちが車を止めたあたりに、もう一台軽トラが止まり、若夫婦がいらした。
息子さんは、遠くから見ても、それとわかるほど、体つきがよく、筋肉ムキムキだ。
「こんにちは!すみません、お忙しいところ、お邪魔しちゃって。ところで、体、鍛えてるんですか?」と思わず聞いてしまった。
「あ、いや、先週から…。」と、ややはにかみながら答えてくださった。
「東京から、わざわざ来てくださったんですか!?」
「あ、いや、わざわざなんて…。そんなに遠くないですし…。」
蕾菜は、今年から品種を変え、とても出来が良かったそう。
方々からの評判も良かった。
「でも、今はレタスと、タケノコっす。今、自分、そのタケノコ掘ってたんですよ。ぜひ、そちらも見てほしかった。」
山の斜面で、肥料も何もしなくても、時期になると出てくるタケノコ。
その生命力ったら、すごい。
私も永田照喜治について行って、けっこう掘ったっけ。
そちらにも興味があったけれど、目の前にある、レタスととうもろこし畑も良い。
寒冷紗の下には、丸々と太ったレタスが豊かに実っていた。
とうもろこしは5月下旬からだそうなので、まだ、よくわからなかったけれど、山梨のきみひめよりも2週間早い。
これはフィットする、と内心思った。
「”はたきもち”って言ってねえ、ひめのもちのもち米とうるち米を混ぜて、毎朝ついて、販売しているの。肉巻きにすると美味しいよ~。」
「”はたきもち”、ですか?」
地方によって違うのかな?
福井のうるち米ともち米を合わせたものは”こごめもち”だし、新潟では”こがねもち”と言う。
もう少し、お話を聞きたかったのだけれど、次の訪問先の約束の時間が迫っていた。
約束した時間通りに行けない申し訳なさも、時間通りに来ない人を待つ落ち着かなさも、どちらも良く分かる。
後ろ髪をひかれながら、次の農家さんのところに向かった。
※やしろは社(やしろ)と書く。八代と書く資料も見られる。900年代に、山城が築かれ、戦国時代には今川氏が治め、その死後には、武田信玄が、遠江国や三河に攻め込むための根城として抑え、徳川家康と何度も争った。