熊本空港から市内を抜け、車で40分。熊本港に着いた。
9:25発の高速フェリーに間に合わず、がっかりしていたが、9:50発のフェリーもあると分かり、急ぎレンタカーを降り、チケット売り場に向かった。
高速フェリーであれば、30分のところ、いわゆる「鈍行」のフェリーでは60分かかる。それでも、次の11:10発の高速フェリーに乗るよりは効率が良い。そう決断して、フェリーに乗り込んだ。
いざ、島原へ!
熊本県から陸路で長崎県の島原半島に行こうとすれば、福岡→佐賀→長崎と有明海をぐるっと回らなくてはいけない。それを避けるため、熊本から島原半島にはいくつかのフェリーのルートがある。
そのひとつが、熊本港⇔島原港のフェリーだった。
青空の下、いったん有明海に出ると、船での時間に30分余裕ができたこともあり、なんだかとても開放的な気分になった。
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金峰山(きんぽうざん)はだんだんと小さくなり、眉山(まゆやま)がだんだんと大きくなった。
1時間はあっという間に過ぎ、フェリーは島原港に着いた。
この地も、海から山までの距離が短い。
「暑いな。」 後から知ったが、外は34度だった。
朝、東京は雨だったので、この快晴が信じられない。日本は広い。
長崎県、島原半島。雲仙普賢岳が噴火したのは、もう22年前になる。
湾岸沿いには、新たにできたのであろう、とても気持ちの良い道路があり、その高架下には、真新しいハウスが立ち並ぶ。噴火によって、半島の南西部は火山灰に覆われ、多くの被害があった。現在では、その火山灰土を生かした、大根やにんじん、メロン作りが盛んだ。放射能さえ無ければ、復興は、より容易いのかもしれない。
人間は、強い。
「ん?」
道路を走っていると、ガソリンスタンドの看板に目が行った。
なんと、レギュラーガソリンがリッターあたり161円、とある。
長崎は複雑な地形が多く、半島も離島(壱岐、対馬、五島など)も多く、その輸送コストを補うべく、全県一律の価格なのだそうだ。
島原港から30分ほど車を走らせ、湾岸の道路をそれて、少し中に入ると、お目当てメロンの畑が見えてきた。
南に海を擁し、東と西に山をいただく地形で、緩やかに傾斜している。日当たりが良く、水はけも良い。朝晩はしっかり冷える。一部、むき出しになった山肌を見ると、りょくけんが好きな赤土であることが分かる。
有機的な流線型のラインで段々畑が区切られ、メロンのビニールトンネルがそのラインに沿っていくつも列を成している。周囲は森で、あふれるような緑の中から、「ホーホケキョッ」と鶯の声が聞こえた。
「お世話になります!」
「こちらこそお世話になります!遠いところ、わざわざ有難うございます。」 とメロンの生産者の一人、中村さんが、農家さんらしい屈託の無い笑顔で迎えてくださった。
あ、あのメロンを作っている方だな、と思った。
不思議なもので、農作物は、作り手の気持ちがそこに表れる。
島原半島の農家さんは、総じて技術力が高い。耕作可能な土地は狭く、上手に切り開いた畑は、その技術力の高さを物語る。
無論、中村さんもその例に漏れない。
数値的なことを挙げれば、長崎県のメロンの慣行基準=平均的な農薬の散布回数は22回なのに対して、中村さんたちは5回しか使わない。
「慣行よりだいぶ農薬の回数も少ないですよね?」
「そう?―え?慣行が22回?それは多いなあ。そんなに使う必要は無いけどなあ。」とサラリ。
6月初旬。島原のメロンはもう終盤で、私が来るから、と写真撮影用に、収穫せず少しとっておいてくれたという一角に向かう(有難うございます)。
写真をシャカシャカと撮っていると、「本当はこんなに草も生やしっぱなしにはしないんだけど。」と少し恥ずかしそう。
「大丈夫ですよ。除草剤を撒いてない証拠で、自分も見慣れていますから。」と言うと
「いやあ、放棄栽培と思われてもイヤだから。」と中村さん。
「4月の末くらいに来てくれれば、プリンスからアムスもタカミも見れて、それは見事だったんだけどね。順番に上から片付けていて、同時に田植えの準備もしているから、追いつかなくてね。」と中村さん。
朝は4時に起きて収穫。9時にはすべて家のほうに運び込み終わる。
気温が低いときに収穫しないと、メロンの品温が上がり、日持ちが悪くなるのだそうだ。
「メロンを栽培して、もうどれくらいになるんですか?」
「40年になるかな。」
「一番苦労することはなんですか?」
「毎年違う天気なことかな。まあ、でもね。」
「?」
「苦労も楽しみのひとつ、っていうかな。その苦労をひとつひとつ解決していくのが面白いのであって、苦労が無ければ、やっぱり面白くないかな。」
“苦労も楽しみのひとつ”
中村さんの口からさらっと出た言葉が胸に響いた。
「来年も宜しくお願いします!」
お互いに、そう言いながら、畑を後にした。
中村さんたちのメロンは、また来年の4月下旬頃から始まる。
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週末、野菜定期便で届いたのは、その中村さんのタカミメロン。
2歳の息子は、現在メロンブームで、それはそれは美味しそうに食べてくれる。
櫛形に切ったメロンの種を取り、皮と実の間に包丁を入れた後、縦に切り込みを入れてサーヴすると、大人用のフォークを上手に使って、次々とほおばっていく。
島原の、あの畑にあったメロンが、今、ここにある。なんだか不思議な気分だった。