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ホワイトアスパラガス 産地訪問記

嬉しさと切なさと。

「え?」

「もう15年は続けたかな。今年で止めるんだ、ホワイトアスパラ。」

「え?」

「だって大変だもの。俺はもう良いの、スイカと稲だけで。労働力を都会からこっちに連れてきてくれるなら別だけど。」

通常のアスパラガスは、収穫までに3年を要す。
種を播き、芽を出し、伸びた茎から葉が出て、光合成を行う。
秋に寒さがやってくると枯れる。
翌春、再び目を出し、葉が出来て、光合成、そして枯れる。
その翌春も同じ。
そして3年目を迎えた株から、十分な太さになり、ようやく収穫を開始できる。
一人前の株になった後は、十年ほどは育て続けることができる。

ところが、真冬のアスパラガスは、そうではない。

2月のまだ雪が残る時期に播種し、ハウスの中で育苗。
十分な大きさになった苗を露地の畑に定植するのは5月の連休頃。
そこから夏を乗り越え、秋には茶色に枯れる。
クリスマスに間に合わせるために、11月中旬には株を土から掘り出して、ビニールハウスのプランタに移し替える。
被覆し、加温して、水を与える。
そうすると、先ほど見たように、芽を出しホワイトアスパラガスになる。

初夏に出てくるような太さはないけれど、やわらかさが特徴になる。
だから、斎藤さんの推しは、一番最初に食べた、細いサラダアスパラ。
先端から半分しか収穫しないから、そりゃあ、贅沢な代物だ。

そういえば、北海道の方は、2年目の株を使うと仰っていた。
その分、太いものが多くなるのかもしれない。

ただ、労働も大変なのだが、致命的なことがあった。

「秋の寒さが、霜が降りるような日が無くなってきたんだ。」

アスパラは芽吹きの野菜。
やはり春から初夏の植物なので、ハウスに入れる前に、寒さに当てる必要がある。

冬が来た!と勘違いさせるために。

それが、ここ、秋田でも、もう難しい。
デジカメは低温で動かないと言うのに。

「でも、たくさん生ってたじゃないですか!今見たやつは。」

「今年は、何年かぶりに、10月に寒い日があったんだ。だから、生りが良いんだと思う。」

それはもう、幸運としか言えない。

斎藤さんが、最後と決めた年に、適度な寒波が来たのだから。

「そうそうグリルにすると、めちゃくちゃ甘くてうまいよ~。
あとは、炊き込みご飯。
刻んだホワイトアスパラガスとごはんを一緒に炊くと、本当に美味しいよ。
蓋を開けると、香りがふわあっと漂うんだ。」

「いつまでありそうですか?」
「一月の中旬くらいまでかな。だんだんと細くなるから、さっきのサラダアスパラだけになるけれど。」
「分かりました。ごはんも良いですね。クリスマスだけでなく野菜の定期便にも入れて、うちのお客様にご紹介します。」

クリスマスに提供できる嬉しさと、今期が最後だと言う切なさと、この野菜の価値と魅力と美味しさをきちんと伝えようと言う使命感みたいなものを感じた。

「頑張ります。」

「うん、頑張って。俺たちも一生懸命送るからさ。年明けも2日から一日おきに収穫するから。」

嬉しさと切なさを感じながら、産地を発つのだった。