サラダアスパラ、と斎藤さんが呼んでいるアスパラは、スジがなく、生でそのままサクサクシャキシャキと食べられた。
甘く、うまみがある。
気になったので、糖度計で測ると、6.0度だったので、特筆すべき糖度ではなかったのだけれど、みずみずしく美味しい。
「じゃあ、見に行くか。」とひとしきりお話しした後、外に出た。
ハウスの前に、何やら根っこの山がある。
「これが、ホワイトアスパラの株だ。」
ひとつ拾い上げ、私に見せてくれた。
「ここが、アスパラの芽で、どうやらこれ以上太くはならない。この目の大きさ(直径)のままアスパラが伸びる。」
ハウスに入ると、全体が四角く黒い布ようなもので覆われていた。
そこを開けて中に入る。
腰より下の高さまでの骨組みの、大きなプランタのようなところに、灰色のビニールシートがかぶさっている。
「そっち、そっちを持って上に剥がして。」
奥行き20mくらいあるビニールシートの半分くらいのところに斎藤さんが立ち、入り口近くの端っこのビニールシートを私がつかみ、剥がした。
アスパラが登場するかと思いきや、またビニールシート。
斎藤さんに促されるまま、もう一枚めくる。
それでもまだビニールシート。
さらにもう一枚めくると、白い棒状のものが、ひょろひょろとそこに伸びている。
いよいよホワイトアスパラの登場だ。
まるで水族館で見た、チンアナゴたちのようだった。
太いのは本当に貴重で、ほとんどが細い。
パキっと斎藤さんが太いものを手で収穫し、私にくれた。
「食べてみて。」
先ほどの細いものよりも、苦みがある。
「ん? ジューシーですけど、少し苦い???」
「そうだろ。」
暗がりで、斎藤さんの表情はあまり見えない。
斎藤さんの考えでは、太く頑張ったものは、色々なものを吸収して、苦みまで出てしまうのではないか、とのこと。
「でも、本場のヨーロッパのものは、苦みがあるので、これはこれで。」
焦ったのは、この圧巻の景色を撮影したいのに、カメラがうまく動作しなくなってしまった事。
シャッターは推すものの、オートフォーカスは働かないし、モードの変更も反応しない。
撮影画像を確認したいのに、再生もできない。
「もう良いでしょう。」
さんざシャッターを押していたので、締められてしまった。
当然である。
光が当たれば、緑になってしまうのだから。
そうならないよう、3重のビニールシート+黒の寒冷紗をハウス全体に被せているのだから。
でも、残念で仕方がない。
帰宅後に調べて分かったことだが、低温でバッテリーかカメラの出力が落ちてしまったようである。
電子機械の、アルアルのようだった。
「斎藤さん。クリスマスに、グリルにして提供したいんですけど、分けて頂けるんでしょうか。」
「ああ、良いよ。一日おきに収穫するから、それに合わせて出荷するよ。」
昨年は果たせなかった、クリスマスイブとクリスマスに、人気メニューのホワイトアスパラガスのグリルが、ついに提供できる。
斎藤さんも、その価値を、私に伝えることができたのが、嬉しそうに見えた。
「もう少し、早く会いたかったな。」
どこか、吹っ切れたような表情で、斎藤さんがつぶやいた。