りょくけん東京

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早秋柿

二足の草鞋。

「あ。」

軽トラの運転席から屈託のない笑顔で私を呼んでくださったのは、土屋さんだった。
小倉さんの次にお邪魔する予定で、様子を見に来てくださったようだ。

でも、助手席には医者に行くという関谷さんが座っている。
小倉さんがフォローしてくださるはず、と信じて、「また後ほど~」と叫んで、その場を離れた。

途中、関谷さんが耕作をあきらめたポット柿の園地が見えた。
なんでも撮影してしまう方だが、今回はやめた。

ほどなくご自宅に着き、関谷さんが無事に玄関から家に入ったのを見届けた後、レンタカーに乗って、再び元来た道をたどった。

小倉さんが病気をして「早秋も太秋も作れない」と言われた時に、私が探し当てた生産者さんが、土屋さんだ。
”ポット柿”で今も柿を育てており、早秋と太秋を栽培している。
同じ市内だということもあり、小倉さんもご存じで、実は紹介しようかと思っていたと聞いて嬉しかった。

電話をすると、

「自宅に来てもらうより、畑に直接来てもらう方が良いかなあと思って。いるかなあ?と思って小倉さんのところに行ったんですよ。」
「すみません、ちょっとお送りしなくちゃいけない方がいて…。」
「あ、大丈夫です、全部、小倉さんに聞きました~。」

さすが、小倉さん。

土屋さんは小倉さんや関谷さんたちよりも一回り若い。
東京のりょくけん松屋銀座店に、私を訪ねてきてくださったときには、その後、劇団四季を見に行くと言っていたような。

「この場所の右隣にありますから直接来てください。」

目印の場所まではすぐだった。
少し通り過ぎてしまい、迂回して園地に辿り着いた。

青いネットに囲まれ、中には大きめの鉢がずらっと並んでいる。
天井には、何やらソーラーパネルが敷き詰められている。

ぐるっと園地を周ると、何のことはない、正面が広く開いており、駐車もごくごく簡単そうなスペースがあった。
そこで、土屋さんは私を待ってくださっていた。

「遅くなりました~」
「いやいや、遠いところをわざわざありがとうございます。」

土屋さんはきっと農業に従事する前は、営業マンだったに違いない。

早速、青いネットの中に入る。
奥行き200mくらいの畑は、防草シートが一面に貼られている。
その上に、大きな鉢植えが、10列ずつくらい一直線に並べられ、1本づくりの柿の木が植えられている。
か細い木に似合わず、大きな柿の実が生っているのがこれまた不思議な風景だ。

「良く生ってますね。もう少しで収穫じゃないですか?」
「いやこれが、そう見えて、そうでもない、というか。早秋は良く分からない品種で…。」

早秋柿は早生の完全甘柿。
着色すると、濃いオレンジでいかにも美味しそうな外観になる。
そして、実際に美味しい。

が、熟期が読みづらい。

「ね、昨年も、今週行けそうです!って言った後、やっぱりダメです!て言ったじゃないですか…。だからなんとも言えません。」

病気を患う前、小倉さんから譲ってもらっていた時もそうだった。

ふと上部を見上げると、配線が並んで、ソーラーパネルがあるけれども、どうやら屋根はない。

「屋根はないんですね。」
「はい、雨が降れば、中に入ってきます。」

5列ずつ早秋と太秋が植えてある。

太秋はシャリシャリした食感が特徴の完全甘柿。
結構好きな味。

ただ、店頭では早秋の方がよく売れる。
太秋はそのシャリシャリの食感を活かすには、青めで収穫するからだ。
糖度20度になっているのに、青い柿だ。

「ところで、土屋さんは就農する前は、やっぱり会社勤めだったんですか?」
「あ、すみません、社長には言ってなかったですかね。私、まだ会社勤めしています。」
「!?」

さーっと今までのやり取りが頭を周り、すべてに合点が行った。

平日の電話連絡は19時を過ぎてから。
東京にいらっしゃるのは土日。
私が瑞穂市に行きたいと連絡したら「何とかします」と言われたこと。

「あ。だから…! 今日もしかして有給ですか?」
「はい。有給取りました。」
「あ、なんだかすみません…。」
「あ、いやいや良いんです。もう一応、昨年定年を迎えて、今期は契約延長しただけで、気軽な身分になりましたから。」

柿の世話は早朝。
収穫は、勤めが終わってから真っ暗の中。
急ぎ、ヤマト運輸さんに持ち込んで発送する。

「そうなんですか…。でも、なんで農業を?」
「あ、それもなんていうか…。引退後に何をしたいかを考えて、こっちなんです。これをやりたいと思って。」

上部にあるソーラーパネルを指さして、少し気まずそうに笑った。

農地を利用した太陽光発電が、先にやりたいこと。
その後、太陽光発電をしながらも、柿が育てられることが分かり、親の柿栽培を、曲がりなりにも引き継ぐことにしたわけだ。
定年後の安定収入を図り、同時に、親の畑も引き継ぐ。
一石二鳥の考え方だ。

現地に来て、ゆっくり話さないと、分からないことが多いなとまた思った。

「引き続きどうぞよろしくお願いします。レンタカーで名古屋まで帰ります。」
「名古屋駅ですか…。岐阜に来る方は、名古屋で降りてしまう方が多いんですが…岐阜羽島まで来た方が良いんですよ。」

私も岐阜羽島まで行ってレンタカーで動くプランはあった。
ただ、恵那までの距離が延びるので、名古屋の方が良かろうと思ったのだ。
ただ、それも合点が行く。
名古屋駅周辺は、渋滞が多く、さっと電車で岐阜県内まで動いた方が良かったのかもしれない。
後で調べて分かったけれど、新幹線の運賃も200円くらい上積みになるだけだった。
道路事情も変わり、新しいインターが出来たので、恵那からみずほに来るのにもそのルートが良かったのではとアドバイスもいただいた。
カーナビはもちろんあるのだけれど、最新のデータは反映されないタイプだった。

「Google Mapだと、もう反映されてると思うんですけど。」

現役の、現地のサラリーマン。
よくご存じだ。

「それと社長、少し値上がりしますんで…。もう資材代も肥料も上がりっぱなしで…。」

さすが営業マン。
もう自分の頭は回っていない。
17時台だったけれど、あたりは暗くなり始めた。

暑いとは言え、確実に季節は秋に向かっているということか。
レンタカーに乗り込み、名古屋までの、帰宅ラッシュの道路に突っ込んでいった。

今度は岐阜羽島にしよう。