「イノシシとかタヌキとかクマが来ないんです。」
獣害がない。
昨今、農家を悩ませる獣による被害がないのだ。
「だから電気柵も立てる必要がないんです。」
自然の恵みも、人智の恵みも受けている。
肥料を無くしたことで、気づいたことが二つあると言う。
1.栗のツヤが良くなった
2.甘みが強くなった
良い事ばかりである。

樹の剪定で、植物ホルモンの動きが変わる。
従来は、窒素、リン酸、カリウムなど、肥料による農学が主流だったが、植物がもともと持っている生長ホルモンをコントロールするやり方も、かなり体系化されてきた。
・オーキシン …葉で作られ、根を張れ!と指示する
・ジベレリン …果実の生長を促す
・サイトカイニン …根っこで生成され、葉を作れ!と指示する
・エチレン …果実の成熟を促す他
これらの生長ホルモンを上手に動かすことで、どうやら樹は生長する。
人間は知らず知らず、昔から、それを”枝の剪定”という方法で動かしてきたようである。
枝を切ることで、新しい枝を生やそうとし、葉が茂り、根を張れ!とそれぞれのホルモンが動くらしい。
坂元さんも、それを学問として、あるいは経験することで、体得したようである。
「でも、最終的には私がやらなくても、だめだなと樹が思ったら、その枝を枯らしますよ、樹自身で。」
生きようとする栗の木は、人が手をかけずとも、自分で生きようとする、と言うことか。
「雑草。これも大事です。」
畑に生える草は定期的に刈る。
枯れれば土に帰り、栄養分となる。
土壌の成分を推察するのにも役立つと言う。
「これ、スイバという酸っぱい葉っぱなんですが。」

スイバは、地域によっては食す。
フランスではオゼイユといってサラダにするし、スカンポとも言う。
この葉が生えているところは土壌が酸性だそうで、栗の木に合っているのだそう。
刈った後は、再び土に帰り、土壌が酸性になることに寄与する。
他に、クローバーは良い雑草。
マメ科の植物なので、根に根粒菌を持ち、窒素を生成する。
逆にドクダミなどは良くないらしい。
ちなみに、栗畑の端っこでミニトマトの果実のようなものを見つけたところ、「それは”悪なす”。非常に良くない雑草です。後で刈っておきます。」と坂元さんが苦々しい表情をした。

ナス科の植物で、世界中に帰化してしまった外来種(アメリカ原産)で、肥料分を吸ってしまうのと、根茎で繁茂するので、撲滅しづらいらしい。
緑の、ミニトマトみたいな植物で可愛らしかったが。
「毒もあるし、とげもあります。」
同じナス科であるじゃがいもが緑化してしまった時に発生する”ソラニン”が植物全体に含まれている。
「へえ~。」
そういえば、トマトがヨーロッパに伝わった時、あるいは日本に伝わった時も『トマトには毒が含まれている』と信じられていたとか。
信じる、というか実際、毒がある品種群もあると言うことか。
「でも、そういえば坂元さん。虫は? クリタマバチは大丈夫なんですか?」