りんごの生産が減っている。
後継者不足が主な原因だそう。
その結果、じりじりとりんごの価格が上がっており、3年前に比べると1.8培にまで上がっている。
3年前まで少しずつ上がってはいたけれど、それ以上に、配送料の値上がりの方が大きく、あまり目立たなかった。
それが、今やりんご自体の価格も上がっている。
「市場に出した方が高く売れる。」
数十年、あるいは十数年お取引のある農家さんから、そう言われると切ない。
市場の価格は品質ではなく、多いか少ないかで決まる。
すなわち多ければ安いし、少なければ高い。
それが、高止まりしているということは、りんごの生産量が少なくなっていることに間違いはなさそうである。
そこに、まったくの業界外から参入し、高密植栽培という栽培方法を広げ、りんごの生産量を増やそう、放棄された畑を買って大きな面積で栽培しようとしている会社もある。
りんご業界では、かなり話題になっている。
高密植栽培は、ごくごく簡単に言うと、今までの株間よりも狭くし、一本づくりで剪定し、その一本も細くすることで、早くから、なんと定植してから1年目、2年目からりんごの実をつけるように仕向けた仕立て方のことだ。
通常、りんごの木は、定植後、まともに実を付けるまで3~4年はかかる。
幹を太くし、枝を広げ、何十年も果実ができるように仕立てる。
それが、高密植栽培だと、親である木が細いため、もう枯死してしまうかもしれないと錯覚して、すぐに子孫を残そうと実をつけるわけだ。
剪定の仕方や、施肥の仕方で、そうは簡単に彼はしないのだけれども、仮に枯れたとしても、空いたところに、また苗を植えれば良い。
理論的に、この技術革新はすごいし、あれ?永田農法ってこの考えに近いんじゃと少し頭をよぎってもいた。
ただ、成功していれば、ここまでりんごの価格は高騰しないはず…?
「暑いから、ここじゃなくて、あっちに行きましょうか。」
倉庫前の駐車場で中村さんとお話ししていたら、ご自宅の裏にある畑に案内された。
大きなりんごの木に、梨棚もあり、うっそうと茂った葉の下に、アウトドア用の椅子とテーブルが用意されていた。
北風も南風も吹いていて、その”木陰”はとても気持ちが良かった。
「とにかくもう暑くて。今日は台風のおかげで北風が吹いているんで、まだ涼しいんですが、いつもは南風なんで、熱風が吹きあがってきます。」
そんな、居心地の良い場所で、高密植栽培の事や、ましの農園の事、ご両親のことなどを話した。
中村さんも同年代。
ホント、どこに行っても年上の大先輩ばかりだった頃とは一変した。
「畑を見せてもらっても良いですか?」と切り出し、南水の心地よい梨棚を外れると、日差しが直に照り付けてきた。
「いやあ、今、一番暑い時で、大丈夫かな?と思って。」
「やせてもかれても元テニス部なんで、大丈夫です。何なら、昔の方が暑かったと思ってますから!」と強がってみた。
「これがふじです。」
まだ8月である。
青い実を生らせていて、何が何だかは分からない。
だが、明らかに太い幹を持つりんごの木は、自らを”りんごの巨木アーティスト”と名乗る、農家の矜持を感じるものだった。
「太いし、大きいですね。」
「はい。その隣はシナノスイート。その向こうはシナノゴールド。あっちにあるのはシナノドルチェです。」
同じ列に、違う品種のりんごが植えてある。
聞けば、同品種の花粉では、りんごの実はならないのだそう。
混在することで、違う品種の花粉が、違う花について、着果しやすくなる。
「見たところ、開帳性の仕立てだと思うんですが…?」と水を向けると、熱心に話してくださった。
「いろんな仕立て方があって。それこそ親とも僕は違う考えで仕立てて。それぞれ、頂点に行くやり方はいくつかあると思っていて。何とか流とか、〇〇道だとか。色々あって良いと思うんです。」
その中でも、中村さんが選んだのは…
・枝を葉脈のように仕立てること。
・南向きに日が当たるように非対称に気を仕立てること。
・徒長枝も、上へ栄養分を上げるにはある程度必要であること。
という仕立て方法。
「この枝を見てください。葉の葉脈と同じように、枝葉を選んで残して、そこに果実をつけるようにしてるんです。」
桃の農家さんのところで、はしご状に互い違いに枝葉を伸ばすやり方を見たことがある。
つまり、その方が実にも葉にも日光が良く当たり、葉脈と同じ形にすることで栄養がスムーズに行き渡りやすい、ということではないだろうか。
「あっちが南なんですけど、樹を見てください、手前の枝は少し下げて、後方の枝は上に伸ばすようにしているんです。」
なるほど、その方が日光が当たりやすいし、どことなく左右対称じゃないなあ?と思っていたら、なるほど、よく見たら、他の木もそのようになっている。
徒長枝は、芯を止めた後に、上へ上へと伸びてしまう枝の事。
農家さんによっては、栄養を無駄に吸うから、と切ってしまう方がいる。
ていうかその方が多いと思う。
「徒長枝は、栄養を吸うんですが、上へ上へと栄養を引っ張っていく役割も果たすんで、僕はある程度、残します。ちょっとこの徒長枝は、元気になり過ぎたんで、もうすぐ落として、、、そうですね、これだけを残すようにしますけどね。」
興味は尽きない。
だが、高原の直射日光は、元テニス部だろうとなんだろうと、頭をぼーっとさせる。
昨今、これを熱中症と言って、巷で流行っている。
夏の出張には、サングラスとか帽子が必要だ。
「ここらへんで、標高が700mくらいですか?」
「そうですね、750mくらいあると思います。次はどこへいらっしゃるんですか?」
「佐々木さんにご挨拶だけして、中平さんにもお会いしたいと思います。」
その後も、歩きながら色々しゃべり、駐車場でもまた話して、再びレンタカーに乗り込んだ。
りんごの話をしたけれども、一番お取引しているのは西洋梨ル・レクティエだったりする。
「引き続き、またよろしくお願いします!あ、レクティエ、今年もよろしくお願いします!」と一言残して、中村さんの畑を離れたのだった。