「もう力まかせじゃなくてね、他人まかせ & 機械まかせにしなきゃいけんなと。」
少しおだやかな表情になったのが、嬉しいような寂しいような。
「おかげさまでね、近くにこうやって支えてくれる家族がいるからね。幸せなことだわい。」
三女は北陸の方に住んでいる。
だけども、忙しい時には、旦那さんと一緒に手伝いに来てくださるそう。
長女、次女、四女は、ご近所。
お孫さんも手伝いに入ってくださるんだとか。
まだまだ話足りなそうな雰囲気を感じたのだけれど、いよいよ切り出すことにした。
「ハウス、畑を見に来ましょうか!」
いつもは車で行っていた松崎さんのハウス。
でも、実はとても近くなので、お婿さんと一緒に歩いて行くことにした。
「実は10年前に、(家に)入って、やってくれないかって言われたんですけど、その時は断ったんですよ。」
当時は、まだお子さんたちも学校に入っていて、不安定かもしれない農家を専門にする選択はできなかった。
お子さんたちが手を離れたので、3年前に退職し、いよいよ専業で農業に従事することを決心した。
「でもまあ、10年よりも前、それこそ結婚する前から栽培は手伝っていたんで…。もう長いんです。」とお婿さん。
今では、松崎さんと長女、お婿さんとその娘さん(松崎さんから見ると、孫)の四人で、畑にいることも多いのだとか。
そんな話をしながら、ハウスの前には先に辿り着いたけれど、松崎さんを待って、ハウスの扉を開け、中に入った。
すべてのぶどうが袋掛けされ、上手に仕立てられたぶどう棚一面に、房がたわわに生っていた。
「手前にシャインマスカット、中に入るとナガノパープル。クイーンルージュもあります。」
ハウスは外側から見ると13連棟。
でも、中は仕切るものなくつながっている。
3反くらいあるだろうか。
「これだけの広さがあるので、実はこの真ん中あたりで温度が違うんです。ナガノパープルの側の方が涼しい。」
ぶどうは、夜の気温が低くならないと黒くならない。
熱帯夜が多くなってしまった各産地では、巨峰やピオーネが十分に黒く着色しないのが問題になっている。
「ここいらは、夕立が良く降って、夜は気温が下がるんで、十分に色は来てますね。もう出荷しても良いくらい。でも、やっぱり糖度18度以上、中身が良くなってからじゃないと。」
お婿さんは、今年から実は、自分の色を畑に出している。
例年、松崎さんであれば、梢になった房を二つ残し、ある程度、大きくなってから、1房に間引きする。
今年は、最初から1房に剪定し、栄養が集中するようにしたのだそう。
そのためか、ぶどうの主幹から横一線に伸びた枝たちに、これまた横一線にぶどうの房が付いているのだ。
また、ぶどうの大事な作業に、摘粒という作業がある。
枝から房が生り、幾多の小さな花が咲く。
その一つ一つがぶどうになる可能性があるのだけれど、500gくらいになるように、花の後に生った粒を間引きする。
私たちが目にするぶどうの房の形は、自然のものではなく、人の手によって作られたものなのである。
密に生った粒を1㎝間隔に間引きする。
出来上がりの粒の大きさをイメージしながら。
また、房の先端の方でぶどうの房の完成形を作るか、房のもっと上部で房の完成形を作り、先端を切って止めるかも、生産者の好みが分かれる。
「お父さんは、先っぽの方で作りたがるんだけれど、僕は今年は上の方で形を作って、このくらいになるよう、先端を落としました。」
そんな話をしている間、松崎さんはずっと、畑をくまなく周っていた。
ぶどうの房にかけられた袋をとって中を確認しているのだ。
「ああやって、収穫のタイミングを見計らってるんです。ぶどうの世話は僕たちがするんだけど、収穫の決定はお父さんがするんです。」
長年の経験でどこの何が早く熟期を迎えるのかを分かるらしい。
その仕事の割り振りは、上手だなと思った。
「大森さん、これ食べて見てください。」
貴重なシャインマスカットの粒を食べさせてもらった。
まだまだ甘くなるけれど、これはこれで美味しい。
ぶどうの風味があって美味しいのだ。
続いて、ナガノパープル。
もう美味しい。
糖度も18.3度あり、そのことを伝えると「もう収穫して良いな。」と松崎さんが頷いた。