余市より少し奥に行くと仁木(にき)という場所がある。
余市と並んで北海道のくだものどころである。
赤井川村から入ると、以前は気づかなかった田んぼに目が行く。
街道沿いに幾多の棚田が連なり、米どころなのだと気づく。
「そうですね、仁木、大江、銀山と続いて、仁木は果樹、大江と銀山は稲作地帯です。」
岩本さんは、先代からトマト栽培でお世話になっている。
仁木のトマトのエースと言ってよい。
1月に種を播き、ハウスの中で苗を育てた後、別のハウスに定植していく。
一番最初の作は、4月1日植え。
少しずつずらして植えて、最後の定植は5月25日だったという。
4月に定植したものは収穫が始まっており、8~9度のものがガンガン出ている。
「毎年、少し抑えすぎて花飛びがあったので、今年はそこまで9度のものが出ないように水の管理をしました。」と岩本さん。
暖地の栽培は、9~10月に定植し、まずは樹を丈夫に育てていく。
12月ごろから収穫開始するが、それまで樹を育てていたから、糖度はあまり乗らない。
糖度が上がっていくのは1月下旬位から。
水を徐々に少なくし、暖かくなり始めると、8度くらいのトマトが出始め、3~5月が、質も量もピークになる。
暑いころに播種し、樹を育て、寒さを経験してから、だんだんと糖度を上げる暖地と、北海道のそれとはかなり違う。
寒いころに播種し、暖かくなる6月中旬に向けて時間をかけて育てるので、最初から糖度の高いトマトが出る。
質と量のピークは6月下旬~7月か。
8月は、最近は北海道でも暑いため、樹がその暑さを乗り切れるように水を与える。
9月に入ると涼しくなり、また糖度を上げていく。
ただ、7月の大玉でジューシーな感じと様変わりし、ぎゅっと小さく小玉のしっかりしたフルーツトマトになる。
その8月の暑いころ、樹が疲れて、花がとどまらず、飛んでしまい、トマトが全く収穫できない時期があったことを反省し、そうならないよう管理した、と岩本さんが言ったのだ。
ご自宅の裏に続く緩やかな斜面に、大きなハウスが10棟ほど並ぶ。
一番上のハウスは大型で、丈夫。
普通の50mハウスが3棟分は入る大きさで、管理もしやすい。
ハウスに入ると、トマトの香りがふわっと漂っており、びっくりした。
葉っぱに肩が少しあたると、さらに香りが舞う。
きれいなベースグリーンがたくさんついているし、課題だった5~6段目の花飛びも起きていない。
この後、7月15日くらいまでは、糖度8度=”完熟”、糖度9度=”特選”が切れることはないだろう。
朝、収穫がし終わった後だったので、あまり赤い玉がなっていない。
「これ、食べてみます?」
オレンジ色に色づいたトマトを、その場でとって、私に渡してくださった。
歯ごたえ、旨み、ジューシーさ。
良い感じだ。
「糖度7~8度はあると思うんですが。まだ酸っぱいかもしれない。収穫したてだから。。。」
否。
「とても美味しいです。酸味もこのくらいはあったほうが。糖度だって。」
懐から糖度計を取り出し、果汁を搾って測ってみた。
9.2度!
やったね!
「ありますよ、9度。心室も多いですし。」
酸味は、北海道から本州に届くころには穏やかになっている。
”心室”は、トマトの壁で区切られた部屋のことで、品質の良いトマトは、このゼリーの部屋が多い。
また、ゼリー部分が緑色だと、濃厚になる。
これはおすすめしなければ。
ハウスの前には、棚田が広がる。
「先週、息子のサッカーの送りで千葉の東部に行ってたんですが、そこで見たよりもかなり生育が進んでますね。」
「ええ?千葉よりも?そうですか。」
とはいえ、岩本さんの米栽培は理論があって、大江の中でも特殊にしている。
「『今日は暑いから水をやる』じゃ、ダメなんですよね。幸い、三日間くらいの天気予報の精度は上がっているので、予測して、対策しないとダメなんです。
5月の13日前後には、この地域は何日か温度が高い日が続く。この傾向はここのところ変わらない。
この時期に向けて、稲を植えることで、一気に育って、草や環境に負けない大きさに育つんです。」
弁に熱を帯びる。
心に響く。
「でも、ほんとにお米については助けてくださってありがとうございます。」
実は、恥ずかしながら、定期配送していたお米を切らしてしまった。
3月中旬。
いつもの農家さんから「もう米は無い」と告げられた。
その時、助けてくださったのが、岩本さんだった。
代替して出荷して、今のところ、お客様からの評判も上々。
こうした農家さんのたゆまぬ努力には、きちんと応えていきたいと思う。