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yuzu ゆず 柑橘 産地情報

天空のゆず。

街道を外れ、左に曲がると、たちまち恐ろしい道になった。
舗装というかコンクリで固めてはあるものの、左側、山の斜面にはガードレールがなく、細い。
ハンドリングを間違えれば、落ちる。
対向車が来たら、私はやり過ごせない。
来るのであれば、地元の方でありますようにと願った。


崖ではない方には巨石が落ちている。
これは何なんだろう?

それでも、昇る、昇る。

何回くねくねと上がっただろうか。

Googleマップは右に大きく曲がれと指示している。
120度曲がらねばならない。

良く見ると、石碑のようなものが建てられており「中村〇〇の家」と書いてあるので、ここと曲がるのは間違いない。
何度か切り返したところで、あきらめて、車をここに置いて歩いていこうと思い立った。

だが、それは叶わない。

道が細いので、駐車するスペースなんて、無い。

まごまごしていたら、上のお庭から、心配そうにのぞき込んでくださる方があった。

間違いない、中村さんだ。

そのまま上がってきてください~ という仕草だった。

決意して、上がることにした。
3度くらい切り返し、勇気をもって、アクセルを踏んだ。

上がった後、切り返しができるスペースがまたあるのだろうかと不安になりながら。

標高は350~400mくらいと後から聞いたものの、もっともっと上がってきたように思う。
こんな山の中、こんな斜面に、立派な家がいくつも建っていて、集落を形成している。
山を整地して、お屋敷も庭も極めて素晴らしい中村家。

奥さんと旦那さんが「こんな遠くの山の中でもよく来てくださいました。」と声を掛けられた。

「途中までは順調だったんですが、あの街道を逸れてからは、正直、大変でした~。」

古いお蔵を改装した、作業場兼応接室に招かれ、中村さん特製の柚子ソーダを頂いた。
皮の風味もしっかり入り、香りもあって美味しい。
ちょっと甘いか??

すらっとした体躯で、メガネをかけ、話口からもおおよそ、農家さんらしくない。

「なんで、ゆずの栽培を始めたんですか?」と聞くと
「いや、仕方なく…。」と奥様が間髪入れずに答えた。

中村さんは元々、公務員で、2016年からゆず栽培を継いだ。
先代が亡くなり、”仕方なく”…。

でも、中村さんは極めて意欲的で、前向きだ。

公務員を辞めてから、農業大学校に通い、卒業のご褒美にドイツの農業を現地に見に行かせてもらった。
そこで、若い女性でも、「ちょっと高いと思っていたけれど、これからは環境も考えて、有機で育ったものを食べていきたい」と話しているのを聞き、有機栽培に挑戦しようと考えたそうだ。
代々のゆず畑があり、先代からの木が130本。
中村さんご本人になって植えたものが150本。
ちょうど、先代がナギナタガヤも植えて、草対策していたし、山の上のため、緩衝地帯も設定しやすいので、有機栽培には取り組みやすいのではないかと考えた。
虫や、病気の対策も大変だったが、書類や在庫管理も大変。
どれだけ収穫したか、どれだけ出荷したか、きちんと在庫管理を書面に残さなくてはいけないのだ。

有機栽培だけではなく、EUへの出荷も行っている。

「有機JAS認証を持っていると、EUへも出荷しやすいんですかね!?」と聞くと、「いや、なんて言いますか…。」

有機同調と言って、日本で認められた有機認証は、EUでも認められる。
ただ、それとは別に、検疫をパスしなければならない。
これが、大変だそうで、結局のところ、EUへ輸出はしているものの、有機栽培農産物としては、出荷していない。

このあたりの二元管理は、仕方がないかもしれないけれど、改善できそうな部分ではある。

お蔵を出て、屋敷のすぐ裏から始まるゆず畑を巡った。
庭の藤の花や椿に似た花が咲き誇っており、とてもきれい。

ゆず畑も、手が入っており、緑色のナギナタガヤは、すでに直立するのを止めて、寝ており、畑を覆っていた。

「ナギナタガヤは、この後、枯れて茶色になり、草を抑えます。そしてそのまま畑に入り、自分で種を残して、翌年また芽吹きます。」

ただ、難しい問題もあり、芽吹いてから育つまでの、1~3月くらいが大変だそうで、雑草に負けないよう人の手で草刈りをする必要がある。

「だから、もうひとつ試していて、クローバーを撒いています。」

マメ科のクローバーも、畑の下の方に繁茂して、雑草を抑える効果がある。
なるほど、もう1面にクローバーが繁茂していて、他の雑草が見えないように、見える。

「ね、なんかうまく行きそうですよね。」

園地はいくつかの小さい箇所に分かれ、間には、コンクリートで舗装した道が続き、散歩道としても良い感じだ。

「トロッコじゃないんですね。」
「あれはレールを敷かなくちゃいけないですし、なかなか大変です。」
「そうですよね~ メーカーさんもどんどん減っているみたいですしね。」

省力化には、この舗装道路が良いと聞く。
手押し車や、エンジンカーも、将来的には通いやすからだ。

それにしても。

5月ということもあるからだろう、緑が美しい。

山々に囲まれ、”天空のゆず”にふさわしい園地。

どこを切り取っても絵になる。

「このあたりは、世界農業遺産にも指定されてましてね。」

にし阿波の世界農業遺産。

崖の特徴を活かした農業を行っているとして、世界に認められているのだ。

昨年(=2024年)、ゆずは凶作だった。

年末のゆず最需要期に、助けてくださったのが、中村さんだった。