最初に”水なす”という言葉を聞いたのは、SKIP入社後だった。
よく、私は農学部だとかそれまでも食べ物に携わる仕事をしていたのではとか言われるけれど、外国語学部出身だし、前職は服屋である。
ちなみに味の素に進んだテニス部の同期に「大森はうちの会社に入ってたら出世してたぞ。」と言われて嬉しかったことがある。
だから、水なすと聞いて、大して響かなかったし、ピンと来なかった。
本場の水なすではなく、りょくけんではなく、たしか元らでぃっしゅぼーやにお勤めだったコーディネーターさんが紹介してくださった南アルプスの農家さんのものだった。
生でも食べられて云々。
と言われ、あ、いやそもそも永田農法のなすは、生でもあくが無くて美味しいんじゃなかったけ?とか生意気にも思っていたし、食べても、ふ~んと思った程度だった。
その数年後、ご縁があって、本場泉州の水なすと出会い、良い調理方法を見つけてからは、印象が変わった。
限りなく肯定的に。
その出会いだって、あんまりストレートじゃない。
あの時は、上司に言われて、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんの生産者の見直しをしていた時だった。
淡路も良いけれど、その、元々のルーツである大阪の、貝塚極早生を作っている農家さんを探すか、種を見つけて誰かに作ってもらえ、という指示だった。
そうして出会ったのが、同年代である北野さんだった。
「貝塚極早生を尋ねて来てくださったのは初めてですわあ。」なんて言われた。
扁平で、誰も作る人がいなくなったのを、このままにしてはいけない、と種を探して譲ってもらい、復活させたのが北野さん。
「ついでに水なすも見ていかれますか?」と住宅地に織りなすのようにあったハウスと露地の水なすを見せてもらったのが、始まりだった。
この、玉ねぎと水なすにインスピレーションをもらって、当時の三代目厨房長が作ったのが、刺身感覚のマリネだった。
作り方は以下の通り。
【作り方】
・材料を切って、軽く塩もみ。
・水分が出てきたら、菜種油を一回り垂らす。
■作りやすい分量
・水なす 1本
・トマト 1玉
・玉ねぎ(新玉ねぎがベター) 1/4カットくらい。30~50gくらい。
・しょうが 10gくらい
・塩 少々(全野菜の分量の0.8%)
・サラダ油 適量(全野菜の分量の5%)
①野菜を洗う。
②水なすを5㎜厚くらいにくし形に切る※。
③トマトをくし形に切る。
④玉ねぎをスライサーでスライスする。
⑤しょうがをある程度皮を剥いてから、スライサーで薄くスライスする。
⑥ボウルに、①~⑤を入れ、塩をし(全野菜の0.8%)、軽くもみ、30分ほど待つ。
⑦水分が出てきたのを確認し、油(分量の5%)をまとわせ、出来上がり。
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30分~1時間くらい寝かせたものが美味しいと思う。
私の最初の感想は、あ、なすってトマトと同じなす科なんだ!だった。
※りょくけんの厨房では、水なすをカットした後、変色を防ぐため、塩水にさらしている。
しょうがのスライスが意外と難しい。
繊維に当たるとスライサーが進まないので、しょうがを回しながら、うまくスライスできるところを探す。
ちなみに、前日にできる下ごしらえの過程が少なく、忙しい朝の作業が多くなるため、ここしばらく提供していなかった。
(りょくけん松屋銀座店の厨房は朝6時50分くらいから稼働しているが、オープン前はとかく忙しい。サラダ用のレタスをカットしたり洗ったり。カットフルーツをカットしたり、100食以上盛り付けを行うからだ)
もう中堅どころの中心メンバーですら初めて食べた。
「美味しい…。かつおのたたきみたいな…!」
かつおを醤油ではなく、塩で食べた時みたいな感じがする、とのことだった。
実は、塩と菜種油(りょくけんでは、基本の油が、特注の菜種油だ)しか、調味料を使っていない。
試しに、オリーブオイルとお酢と黒コショウが加わったものを作ってみたところ、こちらも美味しかったのだけれど、他のメニューとの兼ね合いや独自性なども鑑みて、レシピは変えなかった。
そういえば、生産者の北野さんも、”刺身玉ねぎ”とか”刺身なす”みたいな表現を使っていたような。
当時の厨房長も、もしかすると”かつおのたたき”をイメージしていたのかもしれない。
現メンバーと話し合い、オリジナルのレシピを少々アレンジ。
胡椒をやめ、しょうがの量を減らすことにした。
2025年版の”泉州水なすトマトの生姜マリネ”。
作っても良いし、お時間の無い方はぜひ松屋銀座店で。
■泉州水なすとトマトの生姜マリネ 100gあたり 486円(税込)
■泉州水なす 大阪府 1本 432円(税込)
https://www.shop-ryokuken.com/SHOP/365127.html