甘平は、愛媛県の試験場で生まれた高級柑橘だ。
主にみかんの時期が終了した後、1月~3月に収穫期を迎える柑橘を中晩柑類と呼ぶ。
5月ごろに採れ始める柑橘は、晩柑と言い、河内晩柑がある。
食の高度化が進み、消費者の好みに合うように柑橘類も品種改良が進み、オレンジとみかんの交雑品種がたくさん生まれた。
糖度が高く香りのよいオレンジの良さと、みかんの食べやすさを引き出そうという試みである。
そして、今や、そのタンゴール(みかん×オレンジ)同士の掛け合わせで生まれた第三世代の柑橘がいくつも生まれた。
手で皮が剥きやすく、高糖度で、じょうのう(=内袋)が薄いもの。
その成功例が、甘平(かんぺい)だろう。
「甘平は、落ちるのを前提に作るので、それに耐えられない農家は作れないでしょうね。」と石丸さんは冷静に言う。
甘平は、糖度が高く、平たい格好をしている。
粒々感があり、食べやすく、美味しい。
だが、通常であれば、この時期に出回るのは、伊予柑や甘夏、ネーブルと言った皮が厚いもの。
それには理由があって、皮を厚くすることで、丈夫になり、1~2月の寒さに耐え、生き残ることができるからだと思う。
その自然界の摂理に抗う、食べやすい品種が、甘平なのだ。
だから、結実した実の半分が、落ちてしまう。
「落ちるだけならまだよいんですが、裂果するんです、甘平は。これこれ、このくらいのものでも、もう正品としては出せませんから。」
そういえば、届いた甘平が、箱の中で側面が裂けているのを見たことがある。
「わしらが見逃したような小さい傷が、重さや衝撃で、運送中に割れるんですよね。。。親戚に送って実験もしたことがあるんですが、中で割れまくっていたようで…。」
表側に裂果の跡が見えれば、まだ良いが、裏側に傷がある場合は、お手上げだそうで、収穫後、選果する際に、初めてわかるものも多いという。
「だから、収穫量が読みづらいんです、甘平は。」
中晩柑のもう一つの敵は、鳥だ。
たまみの圃場にはたくさんいたけれど、ここは天井も側面もネットで覆っており、鳥が入らないようにしている。
未熟だけれど、と一玉、石丸さんが渡してくださり、食味をチェック。
まだ酸味は強いけれど、糖はしっかり乗っており、やっぱり美味しい。
2月中旬ごろにいただくものよりも、果肉が固いのが面白い。
「まだやっぱり果肉がしっかりしてますね。」
「あ、それはそうですね。」と笑った。
甘平も2月上旬~中旬に収穫し、そこから常温で少し寝かせる。
病気がついていたものはそこで腐っていくし、酸味も抜け、おだやかになっていく。
甘平の畑のネットをくぐると、「近くにせとかもあるから見ていきますか?」と石丸さん。
ー石丸さんがせとかを作っていることは知らなかった。
私としたことが。。。
コンクリートで舗装された道を少し上がっていくと、等高線上に横に伸びた柑橘畑がいくつも連なっており、その間の野菜の畑では、ご近所のご婦人2名がお国言葉でずっと話している。
良く響くので、正直、丸聞こえだ。
「これですね。」