あっ
と思い出して、きびすを返して小走りで戻った。
すっかり師走の人波。 皆、早足だ。
名字を呼んだが、視線を合わせず、まっすぐ、力強く、人波のなかをつき進んでいった。
町中であまり大きな声も出せないので、致し方ない。
りょくけん元社員の奥さまとご次男だった。
彼が故人となって久しい。 年賀状だけはやりとりしているが、先方が分からないのも仕方のないことだろう。
そういえば、9回目の命日が過ぎて少し経った。
忘れんなよ~。
彼がそう告げたのだと思った。