店頭で、ちょっと隅に寄って、店長と書面を見ながら一生懸命、話していた。
初老の男性の方が、ふっと私の前に現れ、私の名前を呼んだ。
「大森君。」
仕事の中身だった頭から一気に、走馬灯のように、頭が切り替わり、小さく叫んだ。
「先生!!」
小学校5年生と6年生の時の担任の先生だった。
しかもかなりお世話になった。
いろいろな先生にお世話になったけれど、一番、私の人生に影響を与えてくださった先生。
ずっと何年も年賀状だけは出していて、年一回の、短い言葉のやり取りなんだけれど、その短い手書きの短文がまた格好良くて、私も何かと真似をしていたかもしれない。
2年前から、「年齢もあり、年始のご挨拶を控えさせていただきます。」と私からの一方通行になっていた。
風の便りで、体調を崩したとも聞いていた。
「ステロイドを処方してもらったらさ、糖尿病になっちゃって。でも直したよ~2年で。」
正直、何を言ったらよいのかわからないくらい驚いていたし、店長と見ていたプリントも落としてしまうし、ちょっと混乱すらしていたかもしれない。故郷である茅ケ崎から銀座は、そこそこ距離がある。
「じゃね。銀座で”有機野菜”って聞いてたから、ここかなあと思って。そしたら、見知った顔がいたから声かけちゃった。お父さんたちにもよろしくね。」
私の父母も教師。
父は、逆に先生のお子さんを中学校で指導していたご縁もある。
さっと来て、さっと立ち去ってしまった。
何をすべきかぱっと考えて、一番好きなトマトを持って、先生を追いかけ、「これぜひ食べてください」と、先生がぱっと開けたカバンに放り込んだ。
驚きと嬉しさで、顔がくしゃくしゃだった。