年を越え2023年に入って、あまみつの味がグンと上がった。
ちょっとした練乳掛けいちごのような、あの風味が出てきたのだ。
いちごには、収穫量も食味も、でっこみ引っ込みの波が、半年間の収穫の間に必ず起こる。
その幅を施肥や水やりなどの管理=農家の観察眼や腕で小さくする。
「今、また美味しいですよね。コンデンスミルクをかけたような味が出てますよね。」
「今年はまたちょっとポイントを見つけまして。それが今のところ、うまく行ってます。」と川口さん。
9連棟のハウスの中には、2棟だけ、紅ほっぺが植えてある。
静岡県の主力品種だ。
あまみつは、この紅ほっぺを親にして磐田で生まれたそうだが、収穫量が少なく、栽培が根付かない。
紅ほっぺと比較すると6割程度の収穫量。
紅ほっぺの植えてある畑をじっと見た後、あまみつの畑を見ると、確かに少ない。
7割くらいだろうか?
「いろいろ分かってきて、以前は6割くらいしか採れなかったのを、今はいろんな工夫で8割くらいまで持ってこれるようになりました。」
紅ほっぺは、写真を撮ろうとすると、いくつか生っているので、絵になる。
ところが、あまみつは、あまり生っていないので、たわわになっている感じがしない。
”あ、生ってるなあ、ここは美味しそうに見える!”と思ってよく見ると、2株からツルが伸びて、果実が一か所に集約されているだけで、実がたわわに生っているように”見える”。
「摘果(=間引き)はしてるんですか?」
摘果は、通常、10個くらい実がなるところを、間引いて、栄養を集約させ、大玉あるいは、濃い実をつけるための作業だ。
「うちは摘果はしません。」と即答だった。
「うちは変わってて、質も量も上げたいので、せっかく生った実は一切摘果しません。だから、小さい実も大きい実もありますが、努力してどちらも味を上げています。」
あまみつは、元々、結実が少なく、一段に5つ程度しか生らない。
品種的特徴として、収穫量は少ないものの、生来、味が濃いのかもしれない。
「奇形果というか、B品も少ないですね。」
「それはそうです。結実が少ないと、奇形果は当然少なくなります。」
十数年前に初めてお会いした時には、磐田で、もう少し栽培する方がいて、当時、オープンしたばかりの巨大スーパーの売り場を賑わせていた。
「自分の父親の代で”あまみつ”を譲ってもらったんですけど、その時分でもう70代のおじいさんだったので、今はもう、、、どうかな。」
「栽培しているのは、川口さんだけですか?」
「はい、そう言ってもらって構いません。苗もここにしかありません。」
ちなみに、いちごの培養は難しくない。
苗からピョンと出た”ランナー”ができるので、それを新たに植えれば良い。
「でも、譲ってないです。たまに聞かれるんですけど。」
たとえ譲ったとしても、作りきれないし、相応の価格で販売するのはむつかしいだろう。
十数年続けてきた独立独歩の経営と栽培。
川口さんには頭が下がる。
独立独歩と言っても、孤高ではなく、農協ともきちんとお付き合いしているそうだ。
「部会とかいちご農家の集まりに出ると、必ず学びがあって、勉強になるから。」とのこと。
毎年、アップデートしたやり方で栽培される、川口さんのあまみついちご。
その発展に、私も寄与していきたいと本当に思った。