覚悟はしていたけれど、やっぱり長野は広い…。
上田から佐久まで、高速道路を使ったとしても(もしかしたら、使わなくても同じだったかもしれないが)、またもや小一時間。
「あいす、かいにいくよ~」
「いや、もう一回りんごを見に行くよ。」
「え~・・・じゃあいいよ。」
「そのあと、絶対、買ってあげるから。」
(遊び)疲れたのか、安心したのか、四男は間もなく寝てしまった。
佐久の小林さんの園地に着いたのは17時頃だった。
ご自宅に隣接したところに選果場があり、プルーンとりんごの畑も結構な規模で、ある。
車を停め、選果場を覗くと、まだまだ忙しそうに働く小林さんがいらっしゃった。
「遅くなってすみません!大森です!」
日が沈み、あたりは暗い。
「はるかが見たいの?」
「はい!」
「あそこは車で15分くらいかかるし、今ちょうどこの時間帯は渋滞があって、あんまり行きたくないんだよなあ。それでも行く?」
「はい、すみません、お願いします。」
出張の目的はいくつかあったが、そのひとつが、はるかとあいかだった。
最近、毎月、出演の機会を頂いているナックファイブのラジオ番組で、はるかを紹介したかった。
少し早いけれど、収録に合わせて、実物を分けてほしかったのだ。
”あんまり行きたくない感”をめっちゃ出されたけれど、食い下がった。
ー迷惑には違いない。。。
小林さんのご自宅周りは少し小高い所にあり、はるかの園地は平地にある。
15分ほど車を走らせると、きれいに整備された道路の両脇に、小林さんのりんご畑があった。
目の前にバイパスが通り、近くにショッピングセンターができたらしく、17時以降は信号の関係もあって渋滞するらしい。
そして、確かに、詰まっていた。
「はるかもねえ、けっこう落果しちゃってね。今年は少ないのよ。」
「え。」
「実は最近人気も出てきててね。大森さんのところにはそうだなあ、2ケースくらいかなあ。」
「え。いやいや困ります…。」
バイパスの脇に車を停めて、わき道を歩き、一段下がったところに、りんごの樹が整然と並んでいた。
小林さんの品種の選定は、たしかだ。
多くのりんご農家さんがふじを中心に育てるが、夏の8月からいくつかの赤と黄色のりんごをリレーしていく。
赤は、シナノリップ、秋映、シナノスイート、あいかの香り、ふじ。
黄色のりんごは、シナノゴールド、はるか、名月。
少しでもりんごを販売した経験がある方ならば、この品種リレーがどれだけ良いリレーかが伝わることだろう。
それくらい昨今のオールスターがそろっている。
「ここかな、ここがはるか。これもはるか。これは、、名月か。」
ざっと見ていった限り、さほど収穫量が少ないということはない。
「そんなに収穫量が少ないということはないんじゃないですか???」
「うん、う~ん。」
「とーちゃーん~」
少し離れたところから四男の声が聞こえた。
車を降りる際、「見に行こう」と起こしたのだが、四男は「ぼくねむいからここでねる。」と車に残っていた。
車通りも多い場所だったので、途端に心配になった。
「あ、小林さん、ちょっとすみません、ちょっと。」
「? え? ああ、良いですよ。」
再びりんご畑から離れると、バイパスのわき道をこちらに向かってかけてくる四男が見えた。
「と~ちゃ~ん、ぼくもりんごみる~」
「だから、言ったじゃん。最初から来なよ。」
「あのときはねむかったの~」
四男の手をつないで、小林さんの元に戻った。
「ご挨拶して。」と促すと「こんばんは。とーちゃんがおせわになってます。」
「お~なんだ、今日はおともがいたのかあ。」
さっきまで少し厳しい顔だった小林さんの顔が緩んだ。
「今日は実は保育園の送り迎え当番で、、、それを端折りたくて、四男だけ連れてきちゃいました。すみません。」
「四男て…大森さん、四人もいるの? 全員男?」
「はい。」
「へえ~じゃあ、奥さん大変だ。」
そういえば、吉池さんと平林さんには、息子と行くことを伝えてあったが、小林さんにはお伝えしていなかった。
夕闇の中、しばらくりんごの交渉。
「あいかもねえ、あんまりないんだよなあ。」
「そこをなんとか。」
昨今、実はりんごの価格高騰が止まらない。
10kgと重量物で、みかんの2倍くらい大きいので、送料のアップが一つ。
石油資材は値上がりが続いているし、ロシアのウクライナ侵攻で、今年は肥料も資材もさらに値上がり。
いたし方がないのかもしれない。
最終的には、なんとかしてもらうことを約束した。
「すみません、ひとつだけお願いがあるんですが!小林さん!」
「うん、何々?」
「はるか、一玉だけほしいんです。実はラジオ番組に最近出させてもらっていて。そこではるかを紹介する予定なんです。」
「へえ~。ああ、良いよ。」
さっと木々を見渡した後、さっと手で一玉もいでくださった。
「これは日焼けしているやつだから、まあ、(持って行って)良いよ。」
かくして、貴重なはるかを手に入れることができた。
「今日は何、どこ寄ってきたの?」
「須坂と上田に寄ってきました。」
「へえ、須坂ね。」
「ちょっと特殊なりんごで、赤い果肉の”ムーンルージュ”があるんです。」
「ムーンルージュね。あれは僕も作ったけど、もう切っちゃったよ。」
「え、作ってたんですか?」
「農協の役員やってるからね。なんでも”一回は作って”って苗が回ってくるのよ。」
「でも、なんでムーンルージュはやめちゃったんですか?」
「作りにくい! あれは病気に弱い。」
「そうですかあ。。」
「でもうちもあるよ、赤い果肉のりんご。」
「え?」
「炎舞(えんぶ)があるよ。道路挟んだ向こう側の畑に。」
「と~ちゃん、おしっこしたい。」
「え!?」