小野さんの運転する軽トラで、隣のお師匠さんのところへ!という認識だったけれど、尾上山からは一気に下り、住宅地に入った。
”となり”と伺っていたのは、小野さんのご自宅のご近所、ということだった。
「ここだ、あ、もう待ってる。」
小野さんの旦那さんは、土木業を営みながらも、集落のことをよくご存じで、あそこならあれだ、あれならあそこだ、とだれが何を作っているか、誰が美味しいか、よくご存じだった。
「顔が広いですね。」
「いや、田舎だがら。」と謙遜。
門をくぐり、中に入ると、右側手前に、お屋敷があり、正面奥に、背の高いハウスに仕立てられたさくらんぼ畑があった。
ハウスの前には、農家としては若手の、おそらく私と同じ年くらいの方が二人、立っていた。
一人は神(じん)さん。
大きな目に、がっしりした体躯。
聞けば、米を60町作っていて、さきほどの道の途中でさくらんぼも栽培、直売もしているのだとか。
もう一人が、その畑とお屋敷の所有者である赤石さん。
「こんにちは、初めまして。」と名刺交換した。
この方がお師匠さん???
ふわっと疑問を持った。
ビニールハウスの入り口を開いて、畑に入ると、一面にさくらんぼの実がなっており、かなりびっくりした。
五列に並んださくらんぼの樹がハウスの奥までぎっしり。
4~5反くらいある。
案内してくれた小野さんも静かにびっくり。
瞳の大きな神さんも「これはすごい。うちはこの3割くらいのなりだべ。」とさらに瞳を大きくした。
猜疑心の強い私は、これはなり過ぎ? 一つ一つの実に栄養が行ってないのでは? 大丈夫か? と心で思いながらも、あまりにも見事に、たわわになった赤い実が美しくて、魅了された。
しっかりした枝だけれど、いずれの枝もさくらんぼの重さで枝垂れている。
赤石さんは青森県人らしく、初対面の私には、とっても寡黙でクールだった。
ていうか、私がどんどこどんどこ、畑の奥まで勝手に突き進んだからかもしれないが…。
紅秀峰に、佐藤錦、奥には月山錦があった。
「小野さ~ん、ここ、ここ、見てみてください~」
黄色の月山錦が、きちんとなっていた。
「おお~。こんなになるんか~」と小野さんは、再び静かに驚愕。
何やらそこから、赤石さんと小野さんと談義。
津軽弁同士で話すと、よそ者の私には今一つ内容が聞き取れない…。
でも、私も、言語を専門としたものの端くれ。
”27度以上になったときは、水を上げた方が良い。花が咲いた後、実を結ぶときにも、水を播いた方が良い。”
「って言ってましたよね?」と小野さんと赤石さんに確認すると、笑って頷いてくれた。
水と言えば。。。
少しまた気になったことがあった。
「ここ、水はけはどうなんですか?」
一呼吸置いた後、赤石さんが答えてくださった。
「実はあまり良くないんです。」