朝一で訪れたのは、鈴木さん。
浜松西部の農場での研修期間を経て、磐田市の支援プログラムを利用して新規に就農した方だ。
ちなみに、浜松にしても磐田にしても、鈴木姓は多い。
自動車メーカーのスズキも、浜松が本社で(磐田にも工場がある)、地域によっては右も左も前も後ろも”鈴木さん”なんてこともある。
真新しいハウスの中では、小松菜が植えてあった。
空いているスペースは、今後、カラフルなスイスチャードを植える予定だそうだ。
スイスチャードは、いろんな呼び名があって、ややこしい。
イタリア語ではビエトラとも言うし、和名は不断草(フダンソウ)。
赤や黄色の、色を重視してサラダ用にクセなく育てるときには”スイスチャード”と呼ぶことが多い気がする。
ほうれん草の仲間で、ビエトラの名前からもわかる通り、ビーツの葉部である。
ビニールハウスを通り過ぎて、後ろに回ると、2反ほどの面積に、芽キャベツの株が碁盤の目に整然と並んでいた。
収穫をやめてから1か月以上経っているので、雑草や黄化は仕方がないところ。
昨日、拝見した農家さんたちの多くは、(確認はしなかったけれど)先祖代々の土地を畑にしている。
鈴木さんは、完全に新規就農なので、他の地権者から借り受けている畑。
しばらく耕作放棄地だった場所のため、草丈が腰まで優にあったところを、再度開墾し、水平をとってビニールハウスと畑を築いた。
が、草たちの種は相当、土に残っているそうで(さもありなむ)、畝間には草が生い茂っていた。
ご自宅の目の前に畑があるわけでもなく、黙っていても草むしりをしてくる方がいるわけでもない。
それでも、鈴木さんには、魅力がいっぱいだった。
なにせ、若い!
「おいくつなんですか?わっかいですよね?」
「30になります。」
農業において、30歳は、とてつもなく若い。
そしてイケメン。
これも大きい。
これから、うまく自分をプロデュースして、BtoBの販売にも携わっていくことだろう。
「芽キャベツは、アメリカのニューヨークでは健康志向のサラダ野菜として、実はとても流行っているんです。
何回か農家さんにお願いして作ってもらったことがあるんですけれど、あまりうまくいかなくて…。」
「へえ、そうなんですか。」
「調べてみたら、静岡は、芽キャベツの産地なんですね。鈴木さんが芽キャベツに取り組んだのは、そういうご縁もあったんですかね?」
「はい、実際、メインの産地は、ここいらではなくて、向こう、御前崎とかの方なんで、あっちの方なんですけど、、、ここらではやってないから、やってみようかなと。」
「へえ~」
芽キャベツは、キャベツのミニサイズと思われるかもしれないが、生育過程はかなり違う気がする。
非結球の(=丸くならない)キャベツの葉っぱが、キャベツの芯=茎になった部分に生り、上に上に伸びていく。
茎には葉っぱが下からだんだんと生っていき、その葉と葉の間に脇芽がびっしりと出来、別の茎になろうとする。
この、葉と葉の間の脇芽が、芽キャベツだ。
葉っぱは、下からどんどんなっていくので、下の葉っぱは、除去していく。
うまく掻いて、隙間を開けていくことで、まん丸の芽キャベツになる。
葉掻きをさぼると、上下の葉っぱにつぶされ、ぎゅっと平たい形になる。
そうすると、よく見かけるような芽キャベツの形にはならない。
葉掻きをし過ぎれば、光合成ができなくなるので、生長しなくなる。
その、加減が、農家の腕の見せ所となる。
「お客様からもすごく評判良くて、”えぐみがない”って何人かのお得意様に言われました。お客様からも、くれぐれもよろしく伝えてくださいって頼まれました。」と”フィードバック”。
品種は、ごく普通の、農家であればだれでも使っている品種”T-55-499”だという。
連作していない新しい土地と、風と、磐田の土地柄があっているのだろうか。
「あ、ひとつ確認したいんですが…。」
「はい、どうぞ。」
「芽キャベツ、大丈夫でした?あの、そろばん勘定は?十分、再生産できる勘定ですか?」
「今年に関しては、りょくけんさんから注文もたくさんいただけたので、大丈夫です、良かったです。来期はもっと早くから出荷できるように頑張ります。」
正直、そんなにたくさん、インパクトのある数字は発注していないと思う。
でも、にこにこしながら、そうおっしゃっていただくと、私も頑張らねばと思う。
磐田の青空の下、健やかに育った芽キャベツを、もっと広めていけたらと思った。