松井さんのお宅から、まっすぐ進むと、鈴木さんのお宅だった。
私道にそのまま車を停めてしまったが、帰ってきた、だんなさんが、入れなくて面食らったようだ。
「すみません~ 移動しましょうか!?」
「おお、なんだ、お客さんか!東京から?遠くからよく来たな~そうかそうか。こっちはああ、元気村の!? あ、うん
市役所の人? 農林水産課か!? 市の、あの人、ほらあの人、元気かな?」
そうこうしている間に、奥から、鈴木さんが、メロンを持ってきてくださった。
「喉乾いたでしょ!いただきもんだよ!食べな食べな。お尻が割れちゃったから、って、持ってきてくれたの。袋井の。」
追熟具合もちょうどよく、適温に冷やされていて、美味しかった。
「甘夏もあるよ。」
その場で食べさせてもらった。
「ああ、ああ、そんなまだ収穫したばっかの食べて…。酸っぱいでしょう?」
多少酸っぱいけれど、これはこれで美味しい。
甘夏に限らず、多くの柑橘類は、収穫したては酸っぱい。
保管しておいて、酸味を抜く。
「うちのねぎは食べた? ほうれん草は?」
ねぎの根元を食べると、甘さがふわっと来て、おだやかな辛みが後からやってきた。
「甘いら?」
「はい、甘いですね!」
ほうれん草も葉が厚く、どこかピーナッツを思わせる風味があって美味しい。
再び奥に行って戻ってきたと思ったら、今度は飴色の冷凍シャインマスカット。
「ほら、食べて食べて。持って帰りな、車ん中で食べれば良いじゃん。」
シャーベット状になったシャインマスカットは冷たくて、シャリシャリしていて、なんとも贅沢だった。
甘さは、もしかすると、生の方が感じやすいかもしれない。
納屋には、ねぎの表彰賞も何枚か飾られていて、鈴木さんの、確かな腕の証だ。
「何?お昼食べてないの?煮つけがあるけど持っていくかい?」
「いやいや…!」
次から次へ、いっぱいごちそうになってしまった。
だんなさんの軽トラと、我々の車を入れ替えて、鈴木さんのご自宅を後にした。
「すごいでしょう、鈴木さん。」
「お声がきれいでしたね。」
「もともとバスガイドさんだったの。」
「あ!なるほど。」
めちゃくちゃ合点が行った。
お声、たたずまい、カメラを向けた時の姿勢。
「松井さんもよ。たまたま向かいで、二人ともバスガイドさん。」
「へえ~。」
「さわやかでいい?」
鈴木さんのこと? たしかにさわやかだったけれど?
「お昼ご飯、”さわやか”でいい?」
”さわやか”は、遠州の雄ともいうべきハンバーグチェーン!
千葉ではビッグボーイ、神奈川ではハングリータイガー。
半生のおおぶりのハンバーグを、お客様の前で焼き上げるハンバーグチェーン店はなぜだか地方に同じように存在する。
そして、浜松に住んでいたころは、よく、同僚と食べに行ったのを思い出した!
「さわやか、良いですね!」
16時半を過ぎていたけれど、7件の農家さんを回らせてもらい、なんのかんのとごちそうになっていたけれどお昼はまだだった。
懐かしいなあ~。
みんな元気かなあ~?
そんなことを思いながら、大ぶりのハンバーグに舌鼓を打った。