「松井さんのおうちのあっち側。あそこからなら見えるかなあ? あ、ちょっと見えた。あそこがねぎ! ねぎの畑!」
なんだか勢いがある。
しばらく歩いて、また別のねぎの畑。
「ここ、ここは今からの、夏ねぎの畑!」
「やっぱり少し、土目が、天竜川沿いと違いますね。」
「そう、ここらへんは“黒ボク”。水持ちが良い土なの。」
「黒ボクですか? ちょっと関東の黒ボクとは違う感じですね。」
「ええ?そう?」
というが早いか、表面の土をささっと取り除くと、黒っぽい、関東でもよく見かける色合いの土が、中から見えてきた。
「なるほど。」と合点がいった。
「あ、鈴木さん、お写真撮っても良いですか?」
「え、私の?こんなおばあちゃんを? 頭もまいているのに? あらやだ。」
植えたばかりのねぎの畑をバックに、カメラを向けると、角度をきちんと構え、素敵な、かわいらしい笑顔でポージングしてくださった。
…?
「ありがとうございます!」
少しまた歩いて、他の畑を案内してもらう。
「ここはねぎが植わっていてね、これから緑肥を植えるところ。ここからあそこまではぜーんぶ、紅心大根。」
「へえ~。しかしここの畑の土、すんごく細かくなってますね。やっぱりねぎにはこういう感じが良いんですか?」
「そうね、だんながね、計算してこういう風にしてるの。褒めらるようなだんなじゃないけど、ほんと、こういうのはすごいと思うよ!」
「え!? あ、いやいや…。」
そのままどんどん先に進む。
「ここのハウスはね、シャインマスカット。ぶどう!」
「え?? シャインマスカット?」
「隣のハウスは、ナガノパープル。」
「え?? ナガノパープル?」
ねぎと紅芯大根に囲まれて、やけにおしゃれなものが植わっている。
「どっちも皮が食べられてね、甘いよ~。私はシャインより、ナガノパープルの方が好きかなあ。ちょっと小粒で、これくらいにしかならないんだけど。」
「はい、美味しいですよね~。ここは少し標高も高いから、そっか、できるのか…。」
ぶどうは、寒暖差と、ある程度、気温が低くならないと、色が出ない。
「あれ、でも、ナガノパープルって長野県以外で作ってよいんでしたっけ?」
「え? 大丈夫、去年から、つくって大丈夫。」
「あ、じゃあ、良かった。」
向かいの松井さんのところにも、冬の間の畑を貸してほしいと、長野県の方がいらっしゃるらしい。
そのあたりのツテかな?
「ここのハウスは、右がほうれん草で、左が小ねぎ! ハウスを半分ずつにするのは、お父さんと私の分業!なんしろ二人(だけ)でやってるから。このほかに、お茶を一町分。」
「え??このほかにお茶も一町やってるんですか!? お二人だけで!?」
磐田は、特にこのあたりの、磐田原台地はお茶が名産となっている。
周りの森町、掛川、菊川、いずれもお茶が有名だ。
ねぎは、土寄せもあるから重労働だ。
ぶどうや甘夏もやって、お茶まで…それは忙しい…!
ご自宅の周りの畑を一周した後、再度、納屋に戻ってきた。
「おーいっ 誰た、この車は!?」
ノリの良い男性の声が聞こえてきた。