すごすごと上村さんの声がする、明るい光が見える方に戻った。
外に出ると、今日は日差しがあって暑いな~と思うくらいだった気温が、とても涼しく感じられ、
「うわあ~涼しい~!」
天竜川から吹き込む風が、とても気持ちよく感じられた。
ビニールを再び、入念に閉じた上村さんが怪訝そうな顔をしながら、こちらに来て
「(畑を)見に来た人の中で、一番長く奥まで行きましたよ…。」
ーあら、なんかまずかったかな? と思いつつ、空気を読まないように、浮かんだ疑問をすべてぶつけることにした。
ホワイトアスパラガスは、本場のドイツやフランスでは、春の風物詩として好まれ、日本のタケノコのように愛されていて、大衆的な野菜と聞く。
束にされて売られ、さほど高価ではないのだ。
ホワイトアスパラガスは、グリーンアスパラガスを遮光して、軟白化し、白く仕上げる。
その方法は三つある。
一つは、日本のねぎのように土で覆う方法。
二つ目は、塩ビのパイプで一本のアスパラを覆う方法。
三つ目が、白いビニールで畑全体を覆う方法。
「ホワイトアスパラが高価になる理由の一つに、この、収穫にとても手間がかかって、大変だ、ということがあると思うんですが、
ヨーロッパと同じ”土寄せ”を採用しなかったのは何でですか?もちろん、洗わなきゃいけなくて、うまみが落ちるとか、日持ちが悪くなる、とかあると思うんですけど。」
「土寄せだと、適当なんですよ。カッターみたいなものを持って、盛った土の中をザクザク刺して切って、収穫するんです。だから、向こうのは長さもそろってない。」
「へえ~そうなんですね。」
私は、ヨーロッパに留学経験があるが、当時は、今ほど野菜に興味を持っていなかった。
肉類はよく見ていた気がするけれど。
「でもね。もう人権的にこの栽培方法はむつかしいかもしんない。」
上村さんが言い放った。
「人権的???」
「この中、気温50度、湿度99.9%まで上がるんですよ。奥まで収穫に行って、帰ってきて。人の働く環境じゃないって訴えられる日が来るんじゃないかって。」
ほ、ほお~。
「塩ビのパイプをアスパラの周りに刺す方法もあるじゃないですか? あれにしなかったのは?」
「あれはあてずっぽうなんですよ。アスパラが土から出てきちゃダメなんで、『ここかなあ?』と思ったところに、パイプを刺していく。もし無かったら、何にもならない。」
少しでも日が当たると、アスパラは緑になる。
自分はもう根っこじゃない、と思って、茎になろうとする。
パイプを刺す方法は、リスクが高いのだ。
さらに、もう一つの疑問。
「光合成をしないのに、なんで、あんなにホワイトアスパラガスはうまみが出るんですか?」