上村さんは、ご兄弟で農園を営んでいる。
法人化して、事務所も出荷場も構えているから、きっちりしている。
お兄さんが社長さん。
おそらく、私と同じくらいの年齢。
弟さんは、東京でお笑い芸人をしていたという。
数年前に磐田に来て、今や、生産責任者として、上村さんを手伝っている。
事務所から車で5分ほどのところに、アスパラガスのハウスがあった。
ちょうど、土の温度を下げるための、堆肥を畝間に入れ込んでいるところで、現場はお忙しそうだった。
ビニールハウスの一番左の列に、白い、重そうなビニールで、私の肩の高さぐらいまでが覆われている。
この中に、ホワイトアスパラが生っている。
「入っても良いですか? 写真、フラッシュ焚いて撮っても大丈夫ですか?」
何度か確認して、ハウスの中に入った。
重く白いビニールを上に持ち上げると、もう一枚、同じ白いビニールで覆われていて、そこを広げると、中にホワイトアスパラが生っていた。
二重被覆なのか!
水族館で見たチンアナゴみたいだ!
太いのも細いのもあるな。
もわあ~っとする空気の中に、私は歩を進め、突き進んだ。
「いったん閉めますよ~。」
「え、でも、これ、真っ暗ですよねー!?」
「ケータイのライトでも照らしてくださいー。」
「あ、はい。」
後で聞いたことだけれど、収穫の際は、ヘッドライトをつけて、突き進むそうだ。
私は、左手にライト機能をオンにした携帯電話を持ちながら、前かがみになりながら、暗闇を突き進んだ。
所々でカメラで撮影したけれど、ピントを全く合わせられない。
暗いので、オートフォーカスは効かないし、マニュアルにしても、左手が空いていないので、合わせられない。
仕方なく、いくつかピントをずらしながら、複数枚の写真を撮った。
何枚か、一枚でも、ピントが合ったものが撮れていると良いのだけれど…。
怖いもの見たさなのだろうか?
奥へ奥へと進んだ。
暑いけれど、興味の方が強かった。
まだまだ奥があるな、と思ったところで、上村さんからストップがかかった。
「すみません~もうそれくらいで!戻ってきてください~」
え?でもまだ…と思ったけれど、言うことを聞くことにした。