銀座店でスチール製の買い物かごを片付けて、ふと視線を上に向けると、見たことのある顔が見えた。
「こんにちは、お世話になります!」
真っ白な髪をきれいに短かく刈りそろえた細面で、日に焼けたおじさん。
「道法さん!」
ちょっとびっくりした。
銀座店は東京駅からも近く、いきなり農家さんが訪ねてくださることも珍しくないのだけれど。
奥様と娘さん二人も連れていらっしゃっており、さらにびっくりした。
道法さんとは浜松で一緒に働いていたし、言い合うことは言い合ったし、取っ組み合いのけんかもしたことがある仲。
(道法さんのほうがずっと年上なのだけれど)
「美人!お父様に似なくて良かったですね~」
「はい、良く言われます~」
受け答えは堂々としたもので、奥様には良く似てらっしゃる。
そういえば、「ワシ、目が細いけぇ、子どものために、目がぱっちりの奥さんを選んだんよ。」とおっしゃってたっけ。
道法さんは、広島の果実連に長く務めた後、りょくけんに就職。
退職した後、自由に、自身の考える理想の農業を全国各地の農家さんに指導している。
道法さんの理想の農業は、無肥料・無農薬。
今までの農業は、肥料を中心としていたけれど、植物の生長は、肥料の栄養ではなく、植物ホルモンの動きによるのではないか、という考え方。
植物の中に存在する、生長ホルモンと果実を生らせ子孫を残すためのホルモン。
こういったホルモンをどう動かすかで、植物は充分に成長するし、果実もならせる。
私も、理想は、無肥料だと思う。
一方で、気候や土地の質で、可能なもの、可能な時期、可能な場所が限られてくるので、ある程度は人の力や知恵を与えたほうが良いのだろうと思っている。
道法さんの最高傑作は、アボカドとレモン。
ご自身の生まれ故郷である豊島(とよしま)という島で育てている。
方々飛び回っているし、ご自宅も広島本土に構えているので、あまり手をかけられないが、それが、真骨頂。
豊島は、瀬戸内海の島には珍しく、平坦な島で、気温の変化が少なく、温暖なため、レモンの越冬が可能。
一年中、レモンが収穫できる。
熊本のレモンが終了したので、さっそく今年はお声をお掛けし、開始している。
ただ、ご自身のレモンが、売り場でやや萎びれているのを見て「これは良くないの。冬場は暖房をつけるから乾燥するんよ。袋に入れて販売して。」とご指導を頂いた。
夏に販売しているレモンは、裸で販売していても、びくともしなかったけれど、今のレモンは、萎れやすいなあ、なんて思っていたけれど、暖房のせいだった。
せっかくの無肥料・無農薬のレモン。
大事に売らねば。
「ほんじゃ、また頑張ってね。大森さん。」と買い物までしてくださった。
ちょっとびっくりしたけれど、良い時間だった。
■道法さんのレモン 広島県産 約300g 972円(税込)
https://www.shop-ryokuken.com/SHOP/40386.html