「なんなんだろう?あの崖見えるものは?採石でもしたか、がけ崩れがあったのかな?」
平さんの畑は、その”崖”のところにある、とカーナビが指し示している。
近づいていくと、前方から大きなトラックが来たので、道路の端に寄った。
ふと見ると、”平農場”と看板が出ていて、シャッターを閉める方がいたので、車を降りて、お声がけした。
「こんにちは~ りょくけん東京の、大森と申します!今日、訪ねる約束をしていたんですが…。」
「あ~」
良かった、通じた、と思うや否や「こっちは分家の方で、平農園さんはもう一個奥です。ちょうど今通ったトラックに乗っていたのが、平農園の園主でした。まあ、いとこなんですが。」
平農園と平農場。
1軒違い。
「あ、それは失礼しました。すみません。」
「いえ、よくあることなんで。」
そうして再び車に乗り込み、平”農園”に辿り着いた。
「こんにちは~」と車を降りてあいさつした。
ブルーの大きなトラクターを圧力のある水で念入りに洗浄している方と、大きなひさしの着いた帽子をかぶり、上下エンジのつなぎを着た上品で、元気なご婦人が近寄ってきてくださった。
「澤山のところ、寄ってきました? 遠くからはるばるご苦労様。」
おそらく澤山さんは私よりも年下。
平さんは上だと思うのだけれど、声も所作も若々しい。
聞けば、管内の農協の婦人会の会長もお勤めになっており、人望もあるようだ。
「どこで話しますか?私らは寒いから、ハウスの中で休憩をとるんだけれど、あ、ちょっと待ってて、栗豆を持ってくるから。」
私のお目当てであった、栗豆。
黒いインゲンで、北海道の在来種。
しばらくして、米用の丈夫な袋にいっぱい入った栗豆を持ってきてくださった。
「おお~」
「見るの、初めて?」
「はい、ちょっと一粒、食べてみて良いですか?」
「え?このまま?え?良いけど…」
当然、固いけれど、かむほどの甘みが出てきて、濃厚な甘さと、ふかした時のホクホク感が容易に想像できた。
「あま~い、濃厚~」
調べて、うずうずして、見たくなって、つい来てしまった北海道で、ようやく想っていた栗豆を味わい、想像した通りの良い豆だと知った、この喜びとか、高揚感と言ったら、もう―!!
「こんなの食べられるの?」
う~ん、という表情の平さんをよそに、私は嬉しくて仕方なかった。
これを都内の方に、いやりょくけんのお客様に、またご紹介できる!
「栗豆は手作業でしかできなくて。ツルからはずすのも、さやからとりだすのも大変だから、うちでは、私の母や父の仕事なの。あの山、あの建物見える?あの向こう側の畑で作ってるの。」
こういう、手間のかかる作物は、大きなトラクターを運転できない、一線を退いた方たちが担っているのだそうだ。
今年は、不作だが、まだハウス内で干しているものがあるから、と拝見させてもらうことになった。