「売りに出したんだんですか!?」
寝耳に水、とはこういうことなんだろう、そう思った。
あまり整理がつかなかったが、廣田さんの柔和なふわふわした感じと、奥さんの半ば、すべてを受け入れたような、少し落ち着いた雰囲気に、段々と、廣田さんが決めたこと、決めきれないことを察した。
隣で作っていたかぼちゃを、隣の浅川さんが止めるなら、自分が作ろう、と思ってかぼちゃと、例年通りじゃがいもを用意していたら、病気が確定した。
でも、体はここ数年で一番調子が良い。
抗ガン治療も始めたけれど、吐き気も出ないし、体調も変わらず、いたって元気だ。
元気な自分と、周りから客観的に告げられる事実のはざまで、田畑を売って、農家を止めることを決意した。
「でも元気なんだよね。」
聞いてよいのか、よくないのか、正直判断が付かなかったけれど、思い切って聞くことにした。
「病名は?それはそして確定?」
「病名は、すい臓がん、二つの病院で診てもらって、両方そうだっていうから、間違いないんだと思う。」
「でも、お元気そうですよね!?」
「そう、そうなんだよね、だから自分でもなんだか良く分からなくて。」
じゃがいもも、かぼちゃも、大事な商品。
でも、それ以上に…。
「北海道は何しにきたの?」
「いや、トマトと豆と、新十津川が気になって…。つまり廣田さんと浅川さんと…。」
「トマト?」
「そうなんですよ。」
そういって、廣田さんを訪ねる前に、町内のトマト農家さんをノンアポで訪ねたことを伝えると、
「電話番号知ってるから、かけてあげるよ。今日は日曜だから、剣道かな?」
一度はつながらなかったけれど、折り返しがあり、ご紹介いただくことができた。
今から帰宅するところだと言う。
「今日帰るの?」
「はい、19時の飛行機に乗ります。」
「北海道に今日来て、今日帰るの…。じゃあ、ちょっと寄っといで。」
「そうそう、そうしたらいい。」
奥さんからも促され、廣田家を発った。
清野さんの家に再びつくと、ちょうど、軽トラが家に中に入っていくところだった。
軽く名刺交換をして、お互いの状況を確認。
トマト農家の清野さんは、先代の時には、りょくけんともかなりお取引をされていたので、清野さんも良くご存じだった。
「すみません、実は先ほども一度来て、園地は一通り拝見させていただきました。きれいにされてますね。」
「あ、いやいや手抜きばっかりで…本当はもっとやりたいこともやらなきゃいけないこともあるんだけど。」
年齢は、ちょうど私と同じくらいだろうか。
ぽつぽつと話して、その場で失礼してしまった。
もう1件、どうしても立ち寄りたい農家さんがいた。