「玉灯りの唯一の弱点は、遅いことだけだね。」
味が良くて見た目が美しい。
過熱して料理に加えると、なんでも美味しくなる。
ただひとつ。
晩生品種なのだ。
北海道の玉ねぎの収穫は早い地域では、7月から始まる。
それに対して、玉灯りは10月中旬。
そのおかげで、冬を越して、春先まで日持ちする利点もあるのだけれど、とにかく、お待ちのお客様を待たせてしまう。
「親父、糖度の自慢してたでしょ。」
「『最低でも12度はある。』って目の前で糖度測ってくださいました。」
北川さんもなんだか嬉しそうだった。
あれから時が経ち、2年ほど前のこと。
北川さんが、事務所に来たいと連絡をくださった。
―悪い予感しか、しなかった。
値上げかな…。
旧事務所は木造築50年の建物。
狭い応接スペースで、いやな顔一つせずに北川さんは座ってくださった。
切り出されたのは、玉灯りが存続できない、という話。
「え~本当ですか?」
玉灯りの良さも伝わり、お客様がついていたのに、残念で仕方がない。
「品質は良いんだけどね。作っている人が少なくて、昨年は、いよいようちだけだったらしくてね。種屋がもう種を作らない、って言うんだよね。」
さて、どうしたものだろう、と思っていたら、代案で紹介されたのが、天心(てんしん)だった。
天心は、玉灯りの親。
天心の弱点でもあった、日持ちの悪さを克服する品種として生まれたのだけれど、そのために、収穫が遅くなってしまい、結果として、その特徴が支持されなかった。
「でもね。」と北川さんが切り出す。
「これが、やっぱりうまいんだわあ。果肉が厚くて、筋がなくて、やわらかくてさ。大森さんに聞いた、丸ごとのローストにしたら、ホント、うまいんだ。」
”玉灯りの丸ごとロースト”はりょくけん松屋銀座店の人気商品だ。
コンベクションオーブンで約1時間焼いて、甘みを引き出した一品。
クリスマスには、それこそ飛ぶように売れていくデリカだ。
天心は、何日か前に触れた、ダービーイエローが北海道の札幌周辺で根付き、固定種化した”札幌黄(さっぽろき)”を親としている。
明治2年に導入された北海道の玉ねぎの祖とも言える品種の血を引いているなんて、なんだか浪漫だ。
玉灯り終了は残念だけれども、それはそれで、楽しみだった。
そして、2021年。
その、”天心”がいよいよ入荷した。
実際に、お客様に、どう評価されるのか、今からとっても楽しみなのである。
■玉ねぎ(天心) 北海道産 1袋(約500g) 324円(税込)~