何やら、軽トラのお兄さんから話しかけられた黒田さんが田んぼの脇へと歩を進め、蛇口をひねった。
すると田んぼの角から、すごい勢いで水が入った。
「おお~!」
順番待ちだった水が、ちょうど、私たちがいたので、気を利かせてくれたのかもしれない、わざわざ「終わったから使って良いよ」と伝えに来てくれたのだ。
乾いた田んぼには、みるみると水が行き渡り、たちまち私たちの知る水田となった。
まだ、日が経っていないせいもあるだろう、水がまだまだ透明で、下地までよく見える。
虫取りに夢中だった息子たちは、この歴史的瞬間をすっかり見逃していたが、いつの間にか水が入っている田んぼにようやく気付くと「おおっ!」と口々に驚いていた。
そして、また、水の中に新たな生き物たちを見つけていった。
「これ何だ?」
「なんだろう?」
田んぼの水の中にじゃぶじゃぶ立ち入っているわけではない。
ほんの端っこに座っているだけだったが、生物の宝庫のようだった。
「ヒルだ。」
「え?ヒル???」
「ほんとだ。」
「ちょっと手でも出して、血、吸われてみてよ。」
多分、水が入るまで小さくなっていただろう、ヒルは短時間でぷくっと膨れていて、緑色の体躯で、背中には茶色の筋が入っていて、なんとも不気味だった。
田んぼには一時間くらい居ただろうか。
黒田さんご夫妻には意外だったようで、「田んぼでこんなに時間を費やすとは。」と驚いていた。
「畑も、この先にありますけど、もう良いですよね?」
「いやいや、行きましょうよ。」
そこから歩いて5分くらいのところで、黒田さんの奥さんが担当する畑があった。
小豆と大豆と、ささげが植えてあり、鹿対策のために柵によって囲われていた。
「でも、柵の外側にあったなすが、全部食べられちゃったんですよね。鹿がなすを食べるなんて…。」と嘆く黒田さん。
1段目から2段目に移行するところだろうか、実はもちろん、枝も葉もかなり食べられていた。
奥さんが男爵を掘ってくださり、いただいてしまった。
食べられた茄子の隣にはミニトマトが植えられている。
「まだなかなか赤くならないなあ。どうですか?トマトの専門家として、このトマトは?」
「え?あ、う~ん。これは大玉トマト?」
「いえ、ミニトマトです…。」
「あ…。」
私は育てる方は専門ではない…けれど、ちょっと恥ずかしかった。
ところどころ、テントウムシがついている。
テントウムシは、アブラムシを食べるので、害虫対策になる。
「あ!」と長男。