私は、田んぼに水が入っているつもりだったので、サンダルだった。
あまり踏ん張りが効かない中、坂をよいしょよいしょと登った。
あぜ道は、草がすごい。
道から、1.5mほど上がったところに、田んぼはあった。
稲が美しい。
田んぼの緑は、黄緑でもなく、さりとて緑でもなく、とてもきれい。
青い青い空の下、標高600mの佐久は、日差しも強く、暑い。
でも、どこか涼し気なのは、田んぼのおかげなのだろう。
遅れてやってきた、息子たちは、「おお~」と声を上げたのも束の間、草の中の生き物たちに興味津々。
「あ、カエルだ!」
「トンボだ!」
「バッタだ!」
「カマキリだ!」
「いて~~~!」
バッタよりも二回りくらい大きい、キリギリスを見つけて、捕まえたものの、かまれたらしい。
畑の四方の2辺は、ちょうど前日に草刈が終わったようで、私たちが入ってきたところは、まだ終わっておらず、草の丈も高かった。
こどもたちは虫の宝庫に、歓喜の声をあげながら、歩みを進めていた。
「稲がある中、水の入っていない田んぼを見るのは初めてだ。」
「そうですね。1年の中でも、ほんの一時ですからね。」
「へえ~」
「この田んぼには水の”落とし”が2か所あって、ここが一か所と向こうにもう一か所あります。」
2反くらいあるだろうか。
10m×20mくらいの大きさの立派な田んぼ。
その水の管理を2か所の穴=”落とし”で実施しているのだという。
あぜ道に水が抜けるように穴が通っていて、下の用水を流れるようになっている。
その蓋は、たった一枚の木の板だ。
「この、板がミソなんですよね。この手入れを毎回、きちんとやる、というか。」
穴をふさいでいる板は、見たところ、さほど存在感がないけれど、この一枚が、田んぼの命運を握るのだから、ありがたい存在だ。
「でも、だいぶ乾いたな。去年は、雨続きで、結局乾ききらなくて。今年は、よく乾いてますね。」と黒田さん。
昨年は雨が多かった。
それでいくと、今年は、梅雨の時期は雨が毎日のように降り、曇天だったけれど、その後の天気は、いかにも夏らしい夏。
作物には悪くないのかもしれない。