「このサイズだと2年か3年は経っているかな。」
わさびは生育が遅く、1年かけて大きくなっていく。
100gを超えるものは、2年以上かけて育つ。
「ただね、何年もとってると、だんだん小さくなっていってね。こんな小指みたいなサイズになるんだ。」
「へえ~!じゃあ、大きいサイズが採れるほうが良いですね。」
白鳥さん |
少し間を置いた後、白鳥さんは「う~ん、そういうわけでもないんだよな。どっちのサイズにも需要があって、こんな大きいのだと要らない、っていう人もいるし、こういう小さいほうが使いやすい、って言ってくれる人もいる。」
「なるほど。でも、どっちが美味しい、とかあるんですか?」
「う~ん、大きさじゃないな。時期のほうが大きい。夏のほうがどうしても需要が高まるけれど、本当に美味しいのは冬だ。」
「そうなんですか!?」
「わさびもアブラナ科だから、冬のほうが甘みが出る。この溝が年輪のように刻まれるのだけど、溝と溝の間が短い。その分じっくり育っていて、甘みが濃いんだ。」
やっぱりじっくり育ったほうが美味しいのだ。
「それからね、この上流には落ち葉の栄養が豊富だから肥料をあげなくて済むの。」
黙って私と白鳥さんのやりとりを聞いていた照喜治さんが口をはさんだ。
「そう、先生の言う通り、この上流は木々が生い茂っていて、それが落ちて腐った腐葉土が多くて、そこから十分な養分が川に流れ込むんだ。」
照喜治さんが、この地を”良いわさびがあるよ”と認めたのは、そんな環境を推してのことかもしれない。