翌日から、会社で仕事をしながら、私は、関谷さんからの電話を待った。
ある日の夕方だった。
「大森さん!関谷さんっていう方から電話!」
「関谷さん!?」
トイレから戻った私は小躍りしながら受話器を取った。
「こないだは悪かったねェ。電話も遅くなっちゃって。で、何、柿が欲しいの??そうか、困ったなあ。」
「ぜひお伺いさせてください。いつでしたら大丈夫ですか?」
関谷さんは困っているのに、約束を取り付けた。
再度、名古屋に向かい、レンタカーを借りて、午前中には本巣市にいた。
関谷さんのご自宅は、文字通り、お屋敷。
大きな立派なお家だった。
関谷さん |
関谷さんは、代々の農家だったけれど、ご自身は銀行マン、もっと言えば信用金庫に勤めていたので、私どものような中小企業の諸事情には明るい方だった。
お父様が倒れ、信用金庫を退職して、就農したそうだ。
お屋敷のすぐ隣には、梨畑があり、幸水、豊水意外に、珍しい長十郎も作っていた。
長十郎梨 |
少し離れたところには、鉢植えの柿もあり「どうせ農業をやるのなら、代々のお客様は大事にしながらも、新しいことをしたい、と思ってね。」
「ここら辺は富有柿の名産地ですが、富有柿ではなくて、陽豊柿を選んだのは何でですか?」
「そうね、だから、鉢植えもそうだけれど、品種もちょっと特徴のある、人のやらないものをやろうと思ってね。」
「なるほどですね。-ところで、お取引は可能そうですか?陽豊柿を取り扱いたいんですが…」
除草剤はもちろん不使用。
鉢植えで根域制限をして、水分コントロールして糖度を上げる。
まさしく永田照喜治の考えと合致すると思った。
「それなんだけどね、、、鉢植えのおかげで、3年目から果実を収穫できるんだけれど、7~8年で樹がダメになっていくと言われていて、うちのはまだ5年目くらいなんだけれど、カイガラムシが出始めていて、これが出ると、だんだんと小玉化していくんだよね。もう更新(=木の植え替え)の時期なのかな、と思っていて…。今年もどれだけとれるかちょっとわからなくてね。取れてから、連絡しても良い?」
カイガラムシの害が出ている陽豊柿。 |
少しひるんだ。
というのも、ひょんなきっかけは、珍しいくだものを取り扱いたい取引先さんからの依頼だったからだ。
予約を受けたら、ほぼ100%提供しなくてはならない。
「取れませんでした!」はあまり許してくれない取引先だ…。
一通り話した後、ニコニコしながら、「大森さん、まだ時間だいじょうぶ?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ、もう一人紹介したい人がおるんやけど、いい?」
「ええ!もちろん!」
葬儀の時の雰囲気は、そこにはなくて(当たり前か!)、なんだか、優しい方だった。