車を走らせて、感じたことは、鳥取の都市部については、幹線道路がかなり整備されていて、市内を除けば渋滞も少なく、極めて快適、ということだ。
米子ICから高速道路に乗るのだけれど、ずっと無料区間だったし、高速を降りたとしても、立派な道路で、不案内な私でも順調に倉吉に着くことができた。
インターを降りて、しばらく平野を通り過ぎると、少し山道に入り、あっという間に細い道になった。
それでも、これまで潜り抜けてきた山の細道に比べれば、広いほう。
ほぼ約束の時間に生産者の田村さんのおうちに着いた。
というか、通り過ぎて、迷っているところを、田村さんが声をかけてくれた。
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笑顔が苦手だという田村さん。 |
グレーっぽい半そでTシャツに、知的な細い黒眼鏡をかけ、日に焼けた好青年。
とっても若いのだけれど、日差しによって刻まれたシワが、特に笑ったときには際立った。
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こちらは納屋。 |
祖父から受け継いだというお屋敷に案内されて、しばらく話し込んだ。
「まさか、本当に来てくださるとは。」が田村さんの第一声だった。
同じ神奈川県出身。
メガバンクに勤めた後、祖父の家屋敷を引き継いで就農を決めたそうな。
最初は、コメを育て、その次に何か、と思っているときに、近所のおじいさんが、「じゃ、俺がスイカを教えてやる。」と訓示を受けた。
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母屋。 |
鳥取は、農協がかなりしっかりしている。
二十世紀梨や大栄スイカなど産地ブランドになっているものも多い。
農協がしっかりしている、というのは、こういったブランド育成に長けていることもあるが、少し調べればとても進んでいることがすぐ分かる。
☑販売力
☑農業指導
☑育種
田村さんも、農協から指導を受け、近所のおじいちゃんたちに教わり、今に至った。
販売力もあるので、他の産地よりもかなり高値で取引されている。
関東ではあまりなじみがないかもしれないが、関西ではトップブランドだ。
主に、梨がそうだけれど、育種にも力を入れていて、県独自の品種も多い。
「ある程度、栽培に自信もできてきて、農協だけじゃなく、個人でも販売していきたいと思っていて。」
田村さんが目をキラキラさせて言う。
「そうですね!でも、販売チャンネルは多いほうが良いですよ。農協も変わらず出荷したほうが良いと思います。鳥取は農協も強くてしっかりしてますし。」
「そうなんですよ。でも、どうして僕なんですか?」
「まず、鳥取は農協がしっかりしている分、個人の打ち出しが少なくて、弊社のように個人農家さんから直接もらう、という流通が難しいし、ずーっと探すことができませんでした。」
「そうですね。みなさんあまり個人販売はしていないと思います。」
「で、ちょっと視点を変えたら、調味料を売っている鳥取の農家さんを見つけまして。スイカも作っている、と書いてあったんで、思い切って電話したんです。」
「へえ~」
「で、実はその方も北栄町の農協の、割と上の立場の方で、『個人で譲ることはできない』ってはっきり言われまして。『でも、倉吉のほうであれば若い農家さんが対応してくれるかもよ』ってヒントをくださったんです。」
それで探していったら、田村さんに行きついた。
電話していろいろヒアリングしていくと、除草剤も不使用だし、他の鳥取のスイカ畑と違って山の中に畑があり、品種も確認し、これは良いかもしれない、と思い、さっそく送っていただくと、とても美味しかった。
食べた夜のうちに盛り上がって、鳥取に行きたくなった、というわけだ。
素敵な古民家の、お座敷で二人で話していたら、いつの間にか、奥さんとお子さんもちょこんと座っていて。
「で、うちのスイカはどうだったんですか?」と奥さんが、ずっと聞きたかったのを我慢していたのを、すっと控えめに口にした。
「おいしかったですよ~ だから、こうして、色々ある中でも、来てしまいました。すみません。」
そう、いろいろある。
鳥取県は、まだ新型コロナの感染者が極端に少ない。
私がうつすようなことがあってはいけない。
「糖度13.0度。よくシャリシャリした食感、って言いますけど、サクサクした食感で、とても美味しかったです。」
私が言うと、奥さんは安堵したような表情をして、笑みを浮かべた。
外は、いつからだろう、雨は止んでいた。
「圃場、行きましょう!」