一般的に、もやしの豆は、輸入物で、タイのブラックマッペという品種が尊ばれる。
山田さんが、豆もやしに選んだ豆は、黒千石(くろせんごく)という北海道原産の極小黒大豆。
豆もやしを導入した際には、自分たちで作付けしていたけれど、今は、多忙な夏の自作を諦め、北海道の雨竜にある事業組合から譲ってもらっている。
豆もやしも、幻と言って良いくらい、無くなりかけてきたものだけれど、この黒千石も、ほぼ無くなっていた黒大豆。
というのも、栽培が難しいからだ。
一般の黒大豆に比べ粒が小さく、それなのに、葉が多い。
積算温度と言って、収穫できるまでに積み重なる気温も、他の黒大豆よりも多く、従って、収穫が遅い。
雪の多い北海道ではなかなか栽培が安定せず、おりしも、アメリカからの大量で安い大豆が流入し、1970年代以降、栽培されなくなってしまった。
2001年に、農業研究家の田中さんが、収集していた豆の中から、偶然50粒の黒千石豆を発見。
これを播いて28粒が発芽し、種を採種したところから、復活の道が広がった。
田中さんは、北海道よりも気候が温暖で安定している岩手県に黒千石を持ち込み、栽培を委ねた。
ここでまた農研機構が一役買う。
豆の研究者である農研機構の有原氏の指導で、着実に黒千石は増えた。
そして北海道に里帰り。
栽培農家も100軒を超え、順調に収穫量も伸びていたところで、取引業者さんが倒産して、路頭に迷ったときもあったと言う。
今は、その栄養価にも注目され、そういった紆余曲折はもちろんあったものの、栽培も販売も順調と言って良いようだ。
そんな、原料の豆を使ったもやし。
そんじょそこらの豆もやしではないのだ。