軽の白いバンから颯爽と降りていらっしゃったのは、細身で、おしゃれな赤い縁の眼鏡をかけた紳士だった。
チェックのシャツにチノパンも、おおよそ、私の知る農家さんの〝それ”とは違う感じだった。
石丸さん。はるかの畑にて。 |
が、あきらかに人を探している感じと、お父様によく似ていることとで、すぐに石丸さんと分かった。
「大森さんですか?」
「石丸さんですか?」
ほぼ同時に言い合った。
そうして、近くであいさつをするなり、10年前に石丸さんを訪ねたときに、納屋で私はお会いしている、と確信した。
「こんな辺鄙な場所まではるばるありがとうございます。」
「え~。松山空港からすぐじゃないですか。そんなに辺鄙じゃないと思いますけど…?」
「いやいや…」
港から、ちょうど反対側の海岸に、石丸さんのご自宅はある。
ぐるっと回っても20~30分で着くそうだが、真ん中を突っ切るトンネルがある。
「そのトンネルを抜ければ、5分ですから。」
石丸さんが、ガッとアクセルを踏んだ。
「帰りのフェリーは何時ですか?」
「17時5分だったと思います。」
現在、14時20分くらい。
「あ、じゃあ、十分、畑をいろいろ見れますね。」
「はい!ぜひお願いします。」
「じゃあ、まず造成地のところを。」
トンネルをくぐってすぐ、脇道に入って山に入った。
農道もきちんとしており、畑があるところは、斜面を削って平地に直してある。
「中島は山ばっかりなんでね。こういった造成地は、本当にありがたいんですよ。」
畑を見て思ったこと二つ。
はるか |
「そういえば、まだ緑なんですね。」
10月に入ったところ。
2月に始まるはるかは、まだ緑なのは当たり前だった。
出張予定を組んだ時に、すでに分かっていたことなのに、すっかり忘れていた。
「はるかもネットをかけるんですね。」
上部にはネットがかけてある。 |
まだ緑色のはるかだったけれど、上面にネットがすでに張ってある。
「はい、ヒヨドリの被害が多いので、中晩柑類は、ネットがけはしますね。」
まだ緑のはるかをひとつ食べてみた。
「あ、もう食べられますね。美味しい。」
糖度を測ってみると11度あり、酸味が少ないので、普通にはるかの味がして美味しい。
「そうかもしれませんね。ただ、水分が少ないでしょう?これだとまだまだなんですよね、だから。」
簡易のビニールハウス。側面は虫よけ、風よけのネットが張ってある。 |
その隣はビニールハウスになっていて、中には見たことがあるものがあった。
「愛媛果試第28号。」
「紅まどんなですね!」
”紅まどんな”こと、愛媛果試第28号。 |