傍らでゆっくりと歩を進めるのは奥様。
先ほど駐車場で車から降りた女性は、川田さんの奥様だった。
朝の早い農家のこと。
20時過ぎにごはんを食べることはめったにないだろう。
だいぶお待たせしてしまった。
「ずいぶん遅うなったのぉ。」
「すみません、お待たせしました。」
「海鮮丼か八幡浜ちゃんぽんを食べさせよう思っていたんやけど、あそこは閉まるのが早くてな。どこ行こうかのぉ。」
「いや、若いからいろいろ回ってきたんやろ。」
「はい、昼頃に松山空港についた後、西条でキウイを見てから、北条に寄って来ました。」
「そないに回ってきたの。やっぱり若いからあ。」と感心した様子の奥様。
奥様、良い人である。
少し思案した後、地元のスーパーであるフジグランに車で向かう。
イオンモールほどの規模はないけれど、それを目指すような、大きな駐車場と3階建ての建物。
上層階で開いている店があるだろうと川田さんが様子を見に行った。
「あかん、もうエレベーター閉もうとる。弱ったの。」
「あそこはどうやろか、あの通りの、中華ラーメン屋さん。」
「おお、あそこか。あそこはやっとろう。わかった。行ってみようわい。」
ホテルにも近いラーメン屋さんで、夕食をごちそうになってしまった。
テーブルに着くとすぐ、顔見知りらしく、愛想の良い店主に向かって
「こちら、こないだ言うた、”銀座の社長さん”」
と川田さんが私を紹介してくださった。
”こないだ”言ってくださっていたんだ。
川田さんが私どもを気にかけてくださったことを少なからず感じて嬉しかった。
奥様がチャーシューメンを頼み、川田さんもチャーシューメンを頼んだので、日本人らしく私もそれに倣った。
さらに、もっと食べるだろう、とチャーハンも注文してくださり、遠慮したけど結局私が全部食べた。
「若いんだからもっと食べなさい、ほら食べれるでしょう、若いんだから。」と奥様。
”若いから”を連発されて、気分を良くしたのか、ぺろっと食べてしまった。
本当は、そこかしこに、年齢を重ねていっていることを感じているのだが。
明日の朝は、胃がもたれるんだろう。
「良かった、八幡浜に来て、何も食べれんで痩せてしまった、なんて言われるとこだったわい。」と川田さん。
「明日はどんな予定か?」
「せっかく一泊させていただくので、明日は早くから動いて、実は中島まで行きたいと思っていまして。雑柑類をお願いしている農家さんにも、代替わりしてからお会いしていないですし。」
「中島にも行くのか。あそこは真砂土、砂だから、早生みかんでは糖度が上がりきらん。その土質の違いを分かるようにしとかないかんよ。」
「なるほど。朝は7時半くらいからお邪魔しても良いですか?」
「ああ、かまわんよ。こないだまで、コヨー(雇用=臨時のパートさんの事)の人は内子から来ちょってて、6時半に迎えに行っとったがよ。まーったく問題ない。」
「ありがとうございます!」
川田さんはお酒を飲まない。
私もそこまで好きではないし、まったくもって弱いので、安心した。
食べてすぐフェリー乗り場に戻り、ホテルまで誘導してくださった。
「じゃあ、明日な。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
部屋でノートパソコンを少しいじって通販の様子や銀座店の売り上げを確認した後、翌日に備えて就寝。
忙しかったけれど、充実した一日だった。