事前に何度か電話もしていたのだけれど、一回もつながらなかった。
代わりにメールで、やり取り。
どちらかというと、いてもたってもいられず、現地に赴いたような感じだ。
宇野さんには牧場主としての事情があり、冬前の貴重な晴れた天気の下、〝採草”=牧草を刈り取ってまとめる作業をできるだけ進めなくてはいけなかったし、イベントへの参加もいくつかあって、留守がちだった。
幸い、晴天が続き、採草のめどがついたので、9日にお会いできることになっていた。
「どうしよう?」
と思いつつも、はるばるやってきたのだから、と牛がいるほうに歩を進めた。
牛を前に右手を見ると、カフェがある。
よく目を凝らすと、人がいる。
「あ。本当に来た、すごい…」そんな声がいくつか聞こえてきた気がする。
カフェの中に入ると、お客様もいるし、カウンターに若い男性も立っている。
「いらっしゃいませ。」
ソフトクリームを食べながら盛り上がっているお客様がいらっしゃる中、ラフな格好をした男性が、私に向かって言った。
久しぶりの園地訪問だからなのか、疲れているから頭が働かないのか、事務所とかではなく、カフェだからなのか、モゴモゴとしてしまう。
ただ、大きなカメラを方にかけ、黒い手帳を手にしている人物は、一般客ではない、と分かったのだろう、
「大森さんですか?」と男性が声をかけてくれた。
「あ、はい、りょくけんの大森です。あ、宇野さんですか?」
「はい、遠いところ、わざわざお越しいただいてありがとうございます。」
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☑放牧であること
☑草だけ食べていること≒できれば臭くない牧場であること
☑ジャージー牛かブラウンスイス牛であること
☑低温殺菌に近いこと
☑できるだけ北≒寒いこと
いくつか、自分が持っていた牛乳の基準のほとんどを宇野さんは満たしていた。
そこまでの考えに行きつくくらいの方なのだから、なかほら牧場の中洞さんくらいの年齢なのではないかと、勝手に思っていた。
でも、目の前にいる宇野さんは、想定よりもずっと若い。
「わっかいですね!」
「いやいや。どうぞどうぞ。」
カフェの一席を借り、前後のテーブルにはお客様が座っているのに、堰を切ったように話を始めた。
お互いの会社のことや、食に対する考え方。
1時間半くらいだろうか、お互いに聞くときは聞き、話すときは話す。
しゃべりっぱなしだった。