一昨年のこと。
好評だった富山の八尾(やつお)という場所の八頭(やつがしら)が様々な理由で採れなかった。
それでも予約も受けていたので、なんとかしよう、と動いた。
調べていくと、八頭、食べる文化がないと、作られていない。
富山の八尾も、ヤマタノオロチの伝説が残る地域で、それゆえに、八頭が細々と作られ、食されてきた。
それを何とか復興しようと尽力されていたわけだが、体調や天候不良、土地改良の失敗などが重なり、収穫ができなかった。
では、ほかにそのような文化が残る地域はないだろうか?
八頭は、さといもの王様ともいわれる、大型のさといもで、肥大させた親芋を食す。
ひとつで、400gから2㎏になるものまである。
親芋が成長の過程で分化していくので、八つほどに分かれたような境目ができ、頭に見えるので、八頭という。
さといもよりもさらに緻密な肉質で、甘みがあり、それでいて粘り気もある。
関東では、子孫繁栄の願いを込めて、お正月料理に煮ものにして食べる。
さといももセレベスも海老芋も食べたことがあるが、八頭は、やっぱり”さといもの王様”にふさわしい外観と食味だ。
いまだ、お祭り的に定期的に食べる風習が残る地域。
そのひとつが、天龍村の神原(かみはら)の坂部(さかべ)だった。
「すみません、すっかり遅くなってしまって!」
「いやあ、遠いところ、わざわざご苦労様です。」
昼過ぎの約束だったけれど、優に15時を回っていた、、、
少し広くなった道のスペースに、「ここに車停めて良いですか?」と尋ねると
「ああ、大丈夫大丈夫、まず誰も通らないから。」
大杉さんが指さす方には、完全なる通行止めの看板があった。
「あそこから先が通行止めになっていて。災害で道路が壊れて、まだ復旧しないんだ。」
「ここに来るまでも、けっこう危うい場所を通りました。」
「川島って、最初に電話くれた場所あったでしょう。本当はあそこからまっすぐ来ると、もっと早く来れるんだけど、道が壊れちゃっているから。」
なるほど、私は遠回りをせざるを得なかったらしい。
事前に調べた訪問ルートによると、新野から30分ほどで、坂部には来れる予定だった。
2~3倍時間がかかったのは、そんな事情があったのか、と納得した。
「じゃあ、上に行きましょうか。」
大杉さんに促されて、通行止めの看板の方向まで向かう。
左に脇道があり、登っていき、お手製のはしごを上って右に向くと、あっと言わせる風景が広がっていた。