比較的新しい土砂崩れの跡 |
「去年の台風とかで道が壊れて、復旧したんだけどまた壊れてて。”通行止”とは書いてあるけれど、うちには来れるから。」
そういう大杉さんの言葉を思い出した。
落石はそこかしこ。 |
そこに辿り着くまでも、なかなかだったので、少し怖さもあったけれど、突き進むことにした。
がつん!
道路は決して平坦ではなく、ところどころ突き出ていたり、露骨に穴があったりする。
避けようと大きく迂回すれば、崖から落ちる。
がつん!
ガガガガガガ!
大きな枝もそのまま踏み越えようとしたら、どうも車の下のどこかに引っかかってしまった。
一旦車を停めて、車の下部を見ると、案の定、木がしっかりと引っかかっている。
良く見えないので、手で力づくで抜き取った。
バキッ
そのまま木は折れ、他の車がこうなってはいけない、と思い、崖に投げ捨てた。
道もまたさらに二股になった。
カーナビも再度、GPSがくるってしまい、画面上は、道なき道を進んでおり、もはや頼りにならない。
携帯電話もつながらない。
Softbankも、KDDI社のも。
天竜川。きれいだけれど、水位も高く、なかなかの危機感。 |
きれいだなあ、と景色を見る余裕はいよいよ無くなった。
不安になったので、一旦、電話の電波が届くところに戻った。
再度、大杉さんに電話。
「何度もすみません。二股に道が分かれてしまっていたのですが、どっちに進めばよかったのでしょう?」
「そのまま道なりに行くと、道が下がっていくから。10分くらいすると、橋が見えるから、わたって、そこからまた10分くらいかかるかなあ。」
実はそれを聞くのは2度目だった。
方向音痴の元凶でもあるのだが、道を人の口から聞いても、頭に入らないのだ。
あのまま進めば良かったのか。
気を取り直して、車を進めた。
なるほど、少し下に下がり、しばらくすると橋があり、そこを渡って、上に上がっていく。
少し道路が開けたなあ、と左に曲がろうとすると、道の端に、腰かけている男性がいた。
じっとこちらを見ているような―。
いや、待てよ、この山の奥で、腰かけて、誰かを待っているような雰囲気があるのなら。
車の窓を開け、ほぼ同時に問いかけた。
「大森さんですか?」
「大杉さんですか?」