「こんでいー。」
「そんな~。お邪魔させてください。お忙しいと思うので、30分とかでも良いので。」
「なーにいいようがー。コヨーの面倒も見にゃならん。みかんもない。よけーな金使うな。」
電話の向こうで、愛媛 日の丸の川田さんの話す、おそらくは伊予弁であろうその言葉は、ひどく難解だ。
「今年はないからの~」
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福井の田中さんに今年のおもちの具合を伺って、事務所に戻ったときのことだった。
「カ、なんとか、カなんとかさんから電話がありました。」
入社6ヶ月の新卒社員のKさんが、私に言った。
「川田さん?」
「あ、そうです。すみません、聞き取れなくて。」
毎週金曜日に発注を行う。
その発注ファックスに対しての返答が、電話であり、いろいろな情報を川田さんからはいただいている。
とってもまじめなので、私の携帯電話につながらなければ、板橋の会社の電話にも、銀座のお店にもかけてくださる。
(私は事務所にいたが、翌日お店に出ると、案の定、「昨日、農家さんから電話がありましたよ。聞き取れなかったけれど。」と言われた。)
規格外のみかんだったり、極早生から早生への切り替えの話をした後、
「ところで、来週、お伺いしたいんですが!」と申し出ると、
「何を~」とのこと。
みかんの収穫は最盛期。
作業で手一杯なので、たいがい嫌がられる。
それでも、写真を撮ったり、雑談をしたりする15分~30分くらいは、比較的ゆっくり話してくださる。
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川田さん |
ところが、断られた。
「こんでいー」=来なくて良い。
愛媛には、どうしても、他にお伺いしたい農家さんもいるので、このタイミングで行きたかったのに。
コヨーとは、話の流れから、雇用しているパートさんたちのことを言っている。
何度か話すうちに、理解した。
この辺りは、伊予弁がどうとか、こうとか言うことではないとは思うが、、、
「今年はないからの~」と言うので、あせって
「みかんもうないんですか?」と聞くと、
「みかんはある。もうあまり、なって”ない”。」
要するに、収穫作業も忙しいし、収穫期に短期雇用したパートさんたちの世話もしなくちゃいけないし、写真栄えするような量のみかんはもうなってないから、お金の無駄になるから来るな、ということだった。
「5月13日に来い。」
「?」
今度は打って変わって、お誘いの言葉。
「そのころには、みかんの花が咲き誇っちょる。」
「あ、分かりました。」
5月には5月の用事が!と心の中では少し思ったが、急展開に、あまりついていけない。
「それから秋口に来い。おいちゃん、生きてたら相手しちゃるけえ。」
「あ、ありがとうございます。」
「その頃は、見事やぞ~」
そう聞いて、観念。
来年を楽しみに待つこととした。
携帯電話を閉じる前に、通話時間の表示が見えた。
―16分34秒。