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でも、分かった。

「大森さん。」

お店でふわっとデリカのほうに出ようとしていたところ、不意に声をかけられた。
振り返ると、若い女性が二人。

…知らない。

でも、分かった。

「Cさんですか!?」

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今年は、あらゆる作物が不作で、例年、大好評を得ている毛豆も例外でなかった。

台風以前に、猛暑が続き、実がほとんどつかなかったのだ。

ここ数年、青森の農作物が、インターネット上で上手にアピールされていると感じていた。

嶽きみドットコムや、ふかうら雪人参などのサイトがそれ。
現地に行って、なんとか探してきた農家さんや美味しいものが、こうも簡単にネットでアピールされてしまうのはなんだか悔しいのが本音のところだった。

毛豆

毛豆も然り。

いつの間にか、”青森毛豆研究会”なるものが組織され、毛豆グランプリなるものも催され、品質を競っている。

僕たちが、青森のりんご農家でたまたま食べた枝豆が美味しくて、これ、もっと作って東京で売り出しましょうよ。
と、りんご農家に発破をかけて栽培を増やしてもらった枝豆が、青森の津軽に伝わる、毛豆だった。

それを上手にアピールしているサイトがいつの間にか、本当にいつの間にか、立ち上がっていた。

でも。

今年は、いつもの農家さんから、毛豆が出ない。
それならばいっそここに頼ってみよう。

毛豆研究会に連絡してみようと思った。

どうやら毛豆チャンピオンの農家さんもいるが、育て方のリポートなどを見る限り、少しりょくけんと感性が違うと思ってしまった。

枝豆は、根っこに根粒菌という菌がついて、窒素分を吸着させる。
余計な肥料は要らない。

理想は、無肥料。

リポートされている農家さんは、そういったところが見えてこなかった。

1件を除いて―。

それが、研究会を主催するIT会社で、自らも農業に携わり、毛豆も栽培している会社だった。

その、主任ともいうべき人が、Cさん。

何度かやり取りをして、農薬は一切していないし、肥料も、土壌改良剤のみ。
なんというか、畑を肥やすものがなかった。
場所は板柳(いたやなぎ)。
青森空港から弘前に向かう途中の田園地帯。
あるいは、弘前から木造、屏風山に向かう途中の場所。
幾度となく往復したことがある土地だった。

これは、協力しいただくべき!と思って、思い切って声をかけた。

「実は、いつもお願いしている農家さんが、不作でまったく出なくて。Cさんのところから譲っていただけるものでしょうか?」

毛豆の収穫まであと一週間のタイミングだった。

「上司と相談して・・・」といったん預かりにはなったけれど、その後、話は進み、OKをいただいた。

流通や発注日、発送日などの打ち合わせもして、毛豆が、予定通り、午前中に届いたときにはとても嬉しかった。

早速厨房で蒸してもらった。
ふくらみが少し足りないかと思ったけれどお味はとても良い。

毛豆の、あの味の強さがある。

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そのIT企業の、毛豆生産担当のCさんが、”出張に出る”とメールがあったのは前々日。

もしかすると、出張先は東京かもなあ、とか、
もしかしたら、銀座のお店に寄ってくれるかもなあ、
と思っていたので、初めて会うのだけれど、この人は、Cさんだ、と確固たる自信があった。

「そうです。初めまして!」

電話の向こうにいた人だったけれど、イメージしていたような雰囲気の方で、内心驚いた。

ひとしきり話した後、

「来店記念で、写真撮りましょう!」

と言ったけれど、

「いやいや私なんか、私なんか本当に。」
と強く拒否されたので、提案を引っ込めた。

初めて、見ず知らずの私とお取引してくださった方が、こうしてお店に来てくださるのは、正直とても嬉しい。

そして、なぜだか分からないが、Cさんも含め、”生産者さん”がお店に訪れてくれた日は、売上が良い。

その日も、例にもれず、好調な売上になった。

本当に、ありがたい訪問だった。

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