そのマンゴーが、早生か、中生か、晩生か。
品種によって、収穫時期が違ってくる。
そして、完熟型か追熟型か。
完熟型は、食べごろになると落果する。
すぐ食べられるのが特徴だ。
それに対して、収穫して、”常温”にしばらく置いてから、食べごろになるのが、追熟型だ。
アーウィンが完熟型のマンゴーなので、聞きなれないけれど、キーツをはじめ、世界一と言われる”アルフォンソ”も追熟型のマンゴーだ。
「ちなみに、今、苦労している品種とかあるんですか?」
「ありますね、ゴールデンナゲットっていう品種があって。追熟型かな?と思ってとると、追熟していかないし、完熟型かな?と思って取ると、中がモサモサしてるっていうか…。ちゃんと食べられるところ食べるとすごく美味しいんですけど…。難しいですね。」
「分かった、だからアーウィンは簡単なんですね。ネットかけておけば、勝手に落ちるって言うか。」
「そう、そうなんです。やっぱりアーウィンは、豊産性でたくさん実をつけるし、食べごろには落ちてくれるので、分かりやすいです。追熟型は、見極めが難しい。でも、やっぱり食べ比べれば、アーウィンは(糖度)15度前後だし、少し水っぽいので、他の品種のほうが美味しいと思います。うちで出しているマンゴージュースも、アーウィンは使わないんです。他の品種しか使わない。使ったとしても、ミニマンゴーくらい。」
ミニマンゴーとは、受粉がうまくいかず、実はつけたものの、大きくならないマンゴーのこと。
種が薄くしかできず、糖度も高くなる傾向がある。
アーウィンをして、糖度が低いと言わしめるのだから、他の品種はやっぱりすごい。
「しかしすごい品種の数ですね。」
「そうですね。ホント、父の趣味で、いっぱい始めてしまって。」
マンゴーのほかにも、ライチ数種類、竜眼、ジャボチカバ、ホワイトサポテ、アビウ、フィンガーライム、ミラクルフルーツ、コーヒー、チェリモヤ、ジャックフルーツ、スリナムベリー、パッションフルーツ、スターフルーツ etc…。
カニシテル。この後、黄色くなる。エッグフルーツとも呼ばれ、卵の黄身のような食感でとてもあまい。 |
ホワイトサポテ。マンゴーの次にヒットするのではないかと言われてきたトロピカルフルーツ。 |
竜眼。ライチみたいな風味。 |
「就農してどのくらい経つんですか?」
「就農…。」
少しの沈黙の後、
「半年ですね。今年の4月に、就農したから…。」
あ。
その頃、アルフォンソマンゴーのことが知りたくて、頻繁に電話をかけていた。
つながらないことも多かった。
というのも、鍵山さんの先代、つまりお父様が急逝したからだった。
予期しないことだったから、引継ぎもままならず、当時、ばたばたしているところに、私は電話をかけていた。
「でも、父の手伝いには来ていたし、好きな仕事だったので、いつかは継ごうとは思っていました。」
つとめて明るく振舞う鍵山さん。
「でも、急でしたね。」
と言うトーンが切ない。
「あ、鍵山さんのお写真とっても良いですか?」
「え、私ですか!?」
ハウスを出たところで尋ねてみた。
「いや、私は…。私はいいです。また今度ということで…。」
やんわりと断られた。
いつもなら、もう少し粘るのだけれど、写真NGというのも、さーっと考えて、理解できたので、納得した。
もともと、他県のご出身。
お父様が、マンゴーを作りたくて、鹿児島に引っ越してきたそうな。
妹さんはまだ小学校のときだったとか。
たった二人で、しかも女性が、農場経営しているなんて、本当にすごい。
そして、この、間違いなくオンリーワンの、価値あるガラスハウスを、ずっとずっと大切にしていって欲しいと思った。