―オリーブだ。
「オリーブまで植えたんですか!?」
「何をここに植えようか、考えていたときにね、少し先になってもよいから、オリーブを植えることにしてね。小豆島まで講習に受けにいったんだけど、みかんと同じ時期だと気づかされてね。本数を減らして、10本だけ植えてみたの。」
まだまだ幼木。
30年ほど時が経てば、良い実がつくだろうか。
亡くなった永田照喜治は、小豆島のオリーブに話題がなるたびに、「小豆島のオリーブはまだダメです。オリーブは300年の樹齢がないとダメなんです。」と言って憚らなかった。
だから、照喜治さんがもっとも推奨したのは、イタリアでもスペインでもギリシアでもなく、パレスチナのオリーブだった。
樹齢500年を超える木がたくさんあるからだった。
それでも、国内でオリーブの実がとれるのは良い事だと思う。
それも小豆島や浜松だけでなく、最近では、日本各地の暖地で作られるようになってきた。
30年後、どこが、また良い産地になるのか楽しみなのだ。
風除けの垣根を抜けると、眼前に広がるのはインゲン畑だった。
岩井さんの初夏のメイン作物はインゲンだ。
とはいえ、一反以上ある畑にインゲンがうっそうと植えてある。
「これは大変だ…。」
すぐにそう思った。
豆野菜は、収穫作業がもっとも厳しい。
成長が早く、最盛期には、とりきれない。
「これはつるなしの品種ですね。」
「はい、そうなんですよ。」
インゲンには”つるなし”と”つるあり”品種がある。
つるなしは、播種が楽で、栽培が容易である一方、背丈がないので、かがみこんで収穫しなくてはいけない。
かつ、収穫時期が短く、2週間~3週間ほど。
つるありは、仕立てが必要で、支柱を立てて、ネットを張らなくてはいけない。
インゲンのつるがネットをよじ登っていくわけだ。
そのため、仕立ての手間はあるものの、長期間の栽培が可能。
それでも、1ヶ月くらいの間に、豆の時期は集中する。
しかも軽い野菜なので、収穫量としては、さほど上がらない。
「さっきお持ちのもので、10kgくらい行ってますか?」
岩井さんが抱えていたコンテナの中に入っていたインゲン。
「いやいや、あれで5kgくらいですかね。パートさんたちには1時間で2kgはとってくれ、って言ってあります。」
お店で販売している単位が、おおよそ100gか150g。
1時間かけて、あの20倍くらいしか収穫できないのだから、大変だ。
「その中で、”曲がり”とかではじくので、正品にすると、さらに少なくなるんです。」
さらりと、にこやかに話す岩井さん。
「じゃあ、滝沢のほうに行きますか。」