一つのことが気になって気落ちしていたとき、目の前にいらした外国の母娘が、ラフランスを手に取り
「Olha, bons peres」と口にした。
(みて、とっても良い西洋梨よ。)
ポルトガル語だ。
しかも聞きなれたほうの! ※
「Fala portugues?」
(ポルトガル語を話してますね?)と聞くと、驚きとうれしさをもって
「Sim!」
(はい)
と答えてくれ、
「Donde e?」
(どこからいらしたんですか)
と聞くと
「Portugal!」
(ポルトガル)と答えてくれた。
銀座に勤務していると、外国のお客様が来るのは、珍しくない、というか、アジアからのお客様は常に目にする。
欧米の方は少しだけ珍しい。
ポルトガル人は極めて珍しい。
同じ(とされる)ポルトガル語を話すブラジル人は一年に一回くらいは来るが、ポルトガル人は12年勤めていて、初めてだった。
私は父の仕事の関係で、0歳から4歳までブラジルで過ごした。
残念ながらその時のことは全く覚えてない。
縁あって、大学ではポルトガル語学科に進み、4年生の時にポルトガルにも留学させてもらった。
その大学が、ミーニョ大学という新興の大学だった。
ポルトガルというと、古い歴史を持つコインブラ大学だったり、首都であるリスボン大学が有名だ。
私も夏の1か月は、夏期講習でリスボン大学に通ったが、年間のコースは、あえて、日本人がいなそうな新興の大学を選んだ。
そんな話をポルトガル人母娘にしていたら、「そこらへんに歩いている私の息子もミーニョ大学で工学を専攻にしていたのよ。」とのこと。
しばらくしたら、息子さんも含め全7人のご家族が、狭いりょくけん松屋銀座店前に集まった。
聞きなれた北部方言のポルトガル語で、私もうれしくなって、精いっぱい話した。
・日本人はとても親切。ホテルを探していたら、とても丁寧に感じ良く案内してくれた。
・日本人はとても勤勉。生き生きと仕事している。
・ポルトガル人はいかにして必要最小限で働くを考えてしまう。だから日本にもあまり来れない。
最後の質問は、「なんでこんなに高いのか。」だった。
銀座という場所が、日本で最も物価が高い場所であること、人件費が高いことで説明したが、舞い上がっていたのと、他のお客様も多くなり、それ以上説明できなかった。
物価が高い、というのは、決して悲観することではなく、その社会に住む人たちは、その高い水準にある物価を認められるだけの収入がある、ということを裏付けている。
外の経済社会から来た方が、違和感を感じるだけ。
日本の農産物が高いのは、人件費もあるが、一番は効率だと思う。
山がちな土地柄で、一つ一つの畑や田んぼが狭い。
何百ヘクタールもある真四角の土地であれば、一気に機械化ができ、手入れも収穫も楽だ。
日本人は、そのデメリットを補うべく、手をかけることを選び、病気で傷まないように農薬もかけるし、収穫量が増えるように肥料もしっかりやる。
剪定などの技術も磨いた。
私個人の仮説だが、高い湿度も原因かもしれない。
多雨であることは、作物に病気をもたらす。
雨が野菜のウィルスを媒介してしまうのだ。
総じて乾燥した気候である、ヨーロッパやアメリカでは、その心配が少ない。
水が豊かなことはとても幸せである一方、水が欲しくないときにも雨はやってくる。
自然をコントロールすることはできない。
その努力のひとつが、ハウス栽培の発展かもしれない。
う~ん。
ポルトガル人のご家族。
もう一回来ないかな…。
ちゃんと説明したい…。
※蛇足)
ブラジルのポルトガル語は、16世紀に伝わったポルトガル語で、現在のヨーロッパのポルトガル語と、発音や発声がかなり異なる。多くの移民で構成されるブラジルのポルトガル語のほうが発音がはっきりしていて歌を歌うような抑揚があり、明るい。ヨーロッパのポルトガル語は、個人的な意見だが、隣国であり敵対国であったスペインと抗するため、フランスと友好関係にあり、発音や発生はフランス語の影響が強いと思う。