りょくけん東京

りょくけんだより
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ムーンルージュ。

吉池さんの軽トラ、どこぞのお客様、大森のレンタカー。
15分くらいの道のりを3台続いて走った。

広い、気持ちの良い、園地にたどり着く。

「うわあ~気持ち良いですねー。」

不規則に並んだ木々があり、株間も広いので、一本一本の木が大きい。

草刈りのエンジンカーの音が聞こえる。
吉池さんの奥様がいらして、
「あそこで息子が、草刈ってます。」
「あ、良かった、会いたかったんですよね。」

こういうご縁は代々つながっていくもの。
息子さんにお会いできるのは楽しみである。

シナノピッコロは、沿道のすぐ近くにあり、9月末に始まって、10月の後半に入っても木にならせておけるのは、すごい。
やや大きめになってはいたが、元気になっていた。

吉池さんは、ほぼ無肥料。
50年無肥料を続けてきて、なんか少しおかしいな、と最近になって思ったそうで、鶏糞をパラパラっと撒いたそうな…。

土壌の分析をしたい、という会社が来て、”この成分数でりんごが毎年なるのは不思議だ”、と盛んにご指摘いただいたそうで、それから少し気になって撒いたそうだ。
微量栄養素は、無限じゃないから、枯渇するのかもしれない。

間違いないのは、葉っぱが多い。
葉があると、日陰になって、赤くならない箇所がりんごにできる。
他の農家さんは、「葉摘み」と言って、程度の差はあれ、葉を摘む。

「あ、うちは葉は摘まないよ。」と笑って言う。

光合成をおこなって、りんごに栄養分を送るのは葉である。
ほぼ無肥料の分、葉を大事にするのだと思う。
りんごが、多少、着色が悪いのはその葉が多いためだろう。

どこぞのお客様に、「どうぞ、好きなだけ取っていってください。」とかごを渡す吉池さん。
「こうやってこうとるんです。」

美しい園地を前にして、たくさん写真を撮りたい大森は、一人で園地をぐるぐる。

「ほっぺはどちらですか?」と大森が聞くと、「もっと奥、道沿い」と答えてくれたが、分かりづらいだろう、ということで案内してくれた。

「どれでもとっていんですか~」とどこぞのお客様が叫ぶ。
「はい!どれでも~。あ、いや赤いのを取ってください~。」

器の大きい吉池さん。

そこへ、奥様と一人の若者がやってきた。

「大森さん、息子です。」
「! 若い!」
少し恰幅はあるが、あきらかに若い。

「あ、いやもうそんなに。。。」
「おいくつですか。」
「28です。」
「若いじゃないですか!」

お父様同様、農作業服の着こなしも良い感じで、好印象だ。

「いや、親と撮るのはちょっと…。」

一緒に、シナノホッペ
のほうへ向かった。

遠く、岩肌がむき出しになった山が見える。

「ああ、あれは採石場。だんだん山の形も変わってきちゃって。」

シナノホッペ。葉が多いので単体の撮影は難しい。

道沿いに、吉池さんの言う通り、色合いが秋映に似て、濃い赤のしなのほっぺがたわわになっていた。

「きれい~」

しばらく自由に写真を撮らせてもらった。

「これこれ。」

少し背が低い木になっていた、黄色の地に赤が差したような外観のりんごがあった。

吉池さんがぱっと手に取って、ぱっと収穫して、ぱっと私に手渡してくれた。
「ムーンルージュ。」

ムーンルージュ。

なんともしゃれた名前である。
ムーン=月、ルージュ=赤。
黄色の果皮で、果肉が赤い新品種のりんごだ。

須坂や長野市と隣接する中野市の個人の育苗家が開発したりんご。
赤い果肉のりんごを中心に改良を行っている方で、これまでにいくつも赤い果肉のりんごを作り出している。
残念なことに、長野でも中野市内でしか栽培してはいけない、というリールを課しており、ほとんど栽培されていない。

ムーンルージュはその中でも、特に有力品種とされ、長野県内での栽培が認可されたものだ。
苗木が絶対的に足らず、栽培している方は極めて少ない。

吉池さんは、その一人、というわけだ。

「来年はもっとなるから、よろしくね。」とにっこり。

園の中心くらいに場所にまた若木があった。
ピッコロでもフジでもない。

やや円筒形の外観に見覚えがあった。

「スリムレッド!」

スリムレッド。

「そう、またおじいちゃんが高接ぎしたみたい。」と奥様。
「いいよ、じゃあ、売り先決まってないからりょくけんさんにとっておくよ。」
「はい、お願いします!」

こうして現地に来てみると、探していたものが、ふとそこにあるものだなあ、とちょっと感激した。

しばらく、犬のココちゃんと戯れたり、吉池家3人と話した。

「ここでね、リンゴ狩りもやるんですよ。企業さんの依頼で。常にはやってないんですけど。」
「へえ~。ここ、気持ち良いですもんね。」
「そうすると、やっぱりお子さんたちも連れてきてね。そのお子さんたちがまた大きくなって、来てくれたり。」とほほ笑む奥様。

―やっぱり連れてきたほうが良かったかな?

そういえば、お迎えの日である。

「吉池さん、では、愚息のお迎えもあるので、そろそろお暇します。」
「え~今から迎えに行くの?間に合う?」
「あ、新幹線で帰るんで、間に合うようです。」

16時23分の長野発の新幹線に乗れば、間に合う予定だった。
すでに16時20分。
ちょっと間に合わないのはわかっていたけれど、とても良い時間を過ごさせていただいた。

「じゃ、これもっていって。」と吉池さん。

いつの間に収穫したんだろう?というくらいの量のフジとシナノピッコロ、シナノホッペが入っていた。

「うわあ、良いんですか?」という私に、息子さんが

「いや無理無理。おやじ、その量は無理。」

「!」

「いや、大丈夫ですよ、抱えていきます。」と言う私を制して

「そっか、ちょっと多いか。じゃあ、送るよ。」とにこやかに言う吉池さん。

昨今の送料の値上がりの中で、さくっとそんな風に言ってくださるのがうれしい…!
ポカポカした気持ちで、園地を後にした。

◎頑張って売らねば!

そこから、中野市まで足を延ばして、訪ねてみたい農家さんがいたのだが、今回はタイムアップ。
時間的に、ちょっと難しかったかもしれない。

また来れるかなあ…。どうかなあ…。