「紅玉だ…!」
私の記憶が正しければ、そこには紅玉がなっている。
果形も紅玉のものだ。
りょくけんでは、とっくに紅玉の取り扱いは終わっている。
甘いりんごの代表格が、フジであるならば、すっぱいりんごの代表格は、紅玉である。
アップルパイやジャムには最適とされ、加熱した後も、りんごの風味がしっかりと残って美味しい。
このフジ全盛の時代にあっても、紅玉ファンは根強い。
だが、紅玉には致命的な弱点がある。
日持ちしないのだ。
すぐにぼそぼその食感となってしまう。
それを防ぐため、やや未熟で収穫し、早めに出荷する。
だが、きちんと熟させると、糖度も増し、何より日本人が大好きなあの現象が紅玉にも起こるのだ。
このどす黒いたわわに実った紅玉。
成田さんが、意図もなくこのままにしておくはずがない。
園地を方々見ながら、本当にどこもきれいで、あ、あの品種もある、この品種も作っているのか、などなど興奮していたところに、成田さんがやってきた。
なかなか帰ってこない私を迎えに来てくれたようだ。
「あの、あれ!角っこのは紅玉ですよね!?」
「はい、そうです、蜜入り紅玉です。」
涼しい顔で、成田さんがさらりと言った。
「やった!それって美味しいですよね!?」
「はい、一番うまいりんごだと思います。」
紅玉に蜜が入ることは、実は生産者の中では広く知られた事実だが、普通はそこまで熟させない。
日持ちせず、ぶよぶよになって、黒い斑点が出る。
”ゴム果”と俗にいう。
その昔、師匠の永田まこと氏が、「蜜入り紅玉というのがあって…」とさんざん私に聞かせて、結局実現できなかったのが、今、目の前にある!
生産者さんしか、もう食べられない贅沢かな、とほぼあきらめていたのに。
興奮していたが、冷静を装う。
お店に届いた紅玉。しっかりと蜜が入っている。 |
「ところで、グラニースミスはもう木に残ってないですか?写真撮りたいんですが…。」
10月20日に全部収穫した、とさっき聞いたばかりだったが、収穫漏れがないかを期待した。
成田さんは少し考えた後、
「ありますよ。」と回答してくれた。
「どこですか?ちょっと自分、行ってきます。分かる場所ですか?」
「分かりますね。苗木にまだなっています。歩いて2~3分のところです。」
道を聞いて、一人で行ってみた。
少しまだ若めの木に、明らかに青い、あのりんごがなっていた。
品行方正な、リンゴらしい果形。
「あった!」
一本あった後、その向こうには、アルプス乙女も見事に実っていて、その向こうには、シナノゴールドとあいかの香りが、文字通り、たわわになっていた。
今年は、豊作だ。
そう確信した。