「すげえ~。作っちゃいましたね~」
「はい。北王よいちさんも、少しずつキャパシティーを超えてきていて、それで自分たちでジュースを作ろうと考えるようになりました。」
「なるほど。北王さんも色々あったみたいですね。まあ、働き方改革が叫ばれている中、臨機応変に対応する、とか、残業もたくさんする、ということがむつかしくなったんですよね、きっと。」
「はい。」
北王よいちは、とても優れた会社で、都内の有名百貨店のプライベートブランドなど多数の委託生産を行っている会社だ。
自社農場ももち、トマトやぶどうを作っている。
中野さんのジュースは長い間、北王よいちさんで作られてきた。
ただ、産地にある加工場は、労働時間の平準化が非常に難しい。
特に北海道は如実だ。
夏は、食品自給率が400%を超える北海道。
当然ながら、ジュース原料も、夏に集中する。
原料を冷凍する場合もあるが、それだって、皮をむく、洗う、選果するなど、ある程度の一次加工が必要になる。
周りの農家からはりんごやぶどう、トマトなどジュース原料が持ち込まれる。
そうなると、キャパオーバー、対応しようとすれば、残業も致し方なくなってしまう。
北王さんにとっても、中野ファームにとっても、一農家としては最も多いほうのお取引だったそうだ。
が、キャパオーバーの悲鳴に対して、中野さんが立ち上がり、もう一つ加工拠点を余市に作ったわけだ。
「どうですか、トマトはもうすぐ終わりますが、ジュースのほうは?」
「…。」
この北海道訪問の最大の目的。
核心の質問が来た。
電話ではなかなか言えなかったが、ここで言うしかない!
「正直な話、」と切り出した。
「3月1日のロットの食味があまりよくなくて…。常連さんからいくつかクレームをいただいて、そのうちの一人の方は、それを最後に注文がないんです。」
「最初に搾ったロットですね…。正直、あの時は何も分かっていなくて…。それから僕たちも勉強して、技量を上げました。今は本当に良いものができるようになりましたので。安心してもらえれば。」
3月1日のロットは、本当に評判が悪かった。
生産規模が小さく、ロットごと、搾った時期ごとで、味にブレがでることは承知していたし、そのようにお客様にもご案内してきた。
その時のブレには三つの理由があった。
1.できたて過ぎた。
2.冷やすことで、食味の改善があった。
3.中野ファームの製造ポリシーの変更。
実はトマトジュースの出来立ては酸味がとげとげしく出てしまうことがある。
そのため、5年ほど前までは、出来立てはお客様に出荷せず、半年たってから出荷していたほどだ。
少し寝かす期間が必要だったのだが、完売してしまったため、それができなかった。
二つ目は、いつもと搾る時期が違ったこと。
いつも搾汁する夏ではなく、冬に作ったために、液体のさらっと感があった。
冷蔵庫で冷やすと、風味が改善し、いつもの味になった。
ただ、このさらっと感が、いつものお客様には違和感を与えて、水でも加えて薄めたか!という疑念を生むことになってしまった。
三つ目は、製造工場の変更だろう。
加工場が変わることでの変化は大きい。
最初にうまくできなかったことから、委託先であった北王よいちさんに、煮込み時間や、加熱温度などのアドバイスも求めたようだ。
白い、真新しい、きれいな建物の中に入ると、まずはスタッフルームというか、ホワイトボードにかなり話し込まれた跡があった。
「ちょっと電気つけてきます。」
灯りが付き、自動カーテンがシャア―っと開いた。
「お~」
機敏な動きに、一同、感嘆の声を挙げた。
スタッフルームを抜けると、洗浄ルーム。
四角の大きなプールとロケットのような形をした機械が置いてあった。
「ここで原料=トマトを洗います。泡が出て洗います。」
「え~泡出てないじゃん。」
「あ、今はね。作るときに出ます。」と勝さん苦笑い。
ロケットのような機械は、粉砕機。
洗ったトマトを破砕し、次の部屋に送り込む。
「あっち(の部屋)は入れないようになっています。」
覗き込むと、二つの真新しい、大きな釜がある。
「あの二つの釜で加熱するんですね。」
「はい、そうです。」
「1Lの瓶も、180mlの瓶も、両方できるようにしたんですね。」
ひとつの工場で、両方できるところは実は少ない。
少々、投資が必要なのだ。
「はい。パーツを組み替えることでできます。」
「詰め終わったジュースはじゃあ、ここからこちらに来るんですね。」
「はい、本当はあっちから出て一方向にしたかったんですけど、やっぱりお金がかかるんで。」
一通り、拝見させてもらって、一安心。
「はい、じゃあ、もう出るよ~」
中野ファームから一望できるシリパ岬 ※シリパはアイヌ語で山の頭という意味 |