軽ミニバンの二列目に乗り込んだ3人は、それだけで楽しかったらしく、キャッキャッとはしゃいでいる。
ご自宅を出てすぐの信号を右に曲がり、少し進んで、さらに右に入り、なだらかな斜面を登っていく。
左側にまずぶどう畑が見え、やがて両側に広がり、奥に進むと、りんご畑が見えてくる。
青い空。
緑の畑。
赤土。
いつきても、ここは気持ちが良い。
りんご畑は、手前から、つがる、あかね、ひめかみ、昂林がある。
手前のつがるはすでに収穫も終え、緑の葉が目立つ。
あかねりんごもすでに収穫を終えていたが、「一本だけ、自家用にね」とまだ木にあった。
あかね。 |
自家用にね、と言っているのに、平気でもいでしまう長男と三男…。
「とれた~」と喜ぶ三男。
「すみません、安芸さん・・・。」
「いいよ、いいよ、全然。とってみなあ。」
慣れたもので、長男はそのままがぶりついた。
「うーんウマイ!」
少し下ったところに、大きな大きな栗の木があった。
その木の下には数えきれないくらいのいがぐりが落ちていて、三人とも夢中でとった。
「こうやって足で開いて、中を取るんだ。やってみな。」
いがぐりからどうやって栗をとるのか、安芸さんが長男に指南くださった。
見よう見まねで、長男も実行。
三男は期待にそぐわず、とことこ歩いていたところ、いがぐりの広がるところで転んだ…。
そういえば、地元でもドングリ広いが大好きな三人。
一心不乱に栗を拾い始めた。
その間、しばらくりんごをじっくり見ることができた。
「ひめかみはすっとしているのが特徴。昂林はわりとどっしりしている。」
青い空に、赤い実が映えて本当にきれい。
ひめかみ。 |
「きれいですね~もうとれそうじゃないですか、ひめかみ。」
ひめかみは、岩手で生まれた品種で、りんごの王様「フジ」と「紅玉」を掛け合わせたりんご。
蜜入りが良く、少し小玉傾向だが、独特の酸味があって、人によってはパイナップルに似ていると形容する。
「う~ん、収穫はまだだなあ。」
真っ赤に見えるひめかみ。
安芸さんは一目見て、「まだ。」と断言した。
「食べてみてよいですか?」
食べてみると、本当にまだだった。
あと1~2週間くらいだろうか。
熟度のマイスターと言われるゆえんだ。
昂林。球回ししたばかりで、陽光面がまだ赤くない。 |
「昂林もまだだなあ。あと一回葉摘みして、玉回しもしないとナあ。」
りんごの着色=色づきを進めるため、果実に陽を当てる必要がある。
葉摘み、とは、葉を摘んで日当たりをよくする作業。
球回しは、りんごの実ひとつひとつを回して、着色が満遍なく進むようにする作業のことだ。
少し前に球回しをした昂林は、まだ陽光面が白っぽい。
昂林。 |
「ひめかみもナあ、もう市場に出している人は出してるんダあ。早く出すと高値がつくから。でもそれじゃ、このりんごの本当の美味しさが伝わらないンだ。」
「でもあれだナあ。大変かもしれないけど、今が一番楽しい時かもナあ。」
いつの間にか栗拾いを終えた息子たち三人は、通路に敷き詰めるための砂利が積んであるちょっとした小山に上り、様々なポーズをしながら、なにかヒーローごっこに興じていた。
その景色を見ながら、安芸さんが私に諭すように、そうつぶやいた。
「よし、ご飯食べに行こう!12時も過ぎた!」