りょくけん東京

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一本づくり、生き残った桃、そして熟度。だからンまい。

高橋夫妻

「何しろね、『高橋さんこりやうまい桃だ。』と言われるのがうれしくてね。完熟でないとンまくねえだ。」と家正さん。

「共選に出せば、機械の選果にかけるからね、やっぱりある程度固いままとらないといけんちゅーこんでね。そんなんじゃね、やっぱり美味しくない。」と奥さん。

一本づくりの妙は、日当たりのよさにある。
開帳の二本づくりというのが、山梨では当たり前のように実施されている。
まだ、木が少しやわらかいうちに、1本の主幹から二つ枝を選び剪定する。
Y字に木を作っていくことで、日当たりをよくする。

一本づくりは、そのまま一本伸ばしていく。

難点は高さである。
Y字に作った桃の木は背丈も低く、手を伸ばすと届くところに実を生らす。

一本づくりはそうはいかない。
高いところにもびっしりと桃がついていく。

だから昇降機が必要になる。

それでも、面積効率は良くなるようだ。
縦に伸ばし、横に広げない分、同じ面積に、木がたくさん植えられる利点があるようだ。

また、アメリカに行って、家正さんは”有機”に感銘を受けた。
”有機”と言っても、有機JASではなく、肥料を有機質にする、という意味だ。

自家製の堆肥で、何回もトラクターなどでかき混ぜて、完熟堆肥=有機肥料を作りこむ。

それをたっぷりと畑に上げて、とにかく土地を肥やすことが肝心、と習った※。
そして桃も、なるだけたくさんつけておく。
弱い桃は自然に落ちる。

生き残った桃だけが強く、美味しい桃だ、という考え方を持っていた。

そして熟度だ。
家正さんの桃は熟度が高い。

これは機械ではなく、家正さんと奥さんが、手で選果をして箱詰めするから可能だ。
家正さんの桃は、機械で選果するとつぶれてしまう可能性が高い。

「今年はいつごろ、収穫になりそうですか?」
「遅れているといってもね、こっから追いついて、7月のね、2日、3日あたりじゃないかね。」と奥さん。
「じゃあ、またそのころ!」

今年は、少し分けていただけるのかもしれない。

「じゃあ、ちょっとお遊びなんですが、昇降機乗らせていただいても良いですか?」
「ああ、いいですよ。」
「何人まで乗れます?」
「一人でいつも乗ってるけれど…。」
「120㎏までって書いてある。」とスタッフさん。
「じゃあ、まあ3人まで行けるよ。乗ってみましょう。」
と厨房女性スタッフのIさんと八百屋で働くロッケンローラ―今井さんと私で、まず乗ってみた。
位置的に、Iさんが運転することに。
「Iさん、車、運転したことあるよね、大丈夫だよ。」と促す。
「ここがエンジンのスイッチで、このレバーをこっちに押すと上がって…」と奥さん。
「え。え。え。」とIさん。
「私、運転なんかしたことないですよ。」

言うが早いか、今井さんとへっぴり腰になって取っ手をつかんだ。

ほぼ同時に、昇降機が上がっていく。
Iさん、何気にレバーを操作したようだ。

上がるスピードが遅い。

「いつもより断然遅いな。3人は乗りすぎ…。」少し離れたところで見ていた正孝さんがポツリ。

「うん、なんかおかしい、Iさん、下がりましょう。」
「え、私まだ何も周りを見てない…!」
「ごめん、なんか3人はダメだったっぽい。」

危険を察知した私と今井さんは早々に降りることにした。

「はい、次。もう一組だけ乗させていただきましょう。」と勝手に仕切ってみた。

「じゃあ私が」と副店長。
「…。」ニコニコしながら無言で乗り込む男性スタッフのKさん。

彼は本業が俳優だ。
6月末にも公演が控えている。

がーっと上がっていく。
私が乗った時と明らかにスピードが違う…。

「じゃあ、ここらへんで。」と副店長が言うので、
「いや、もっと上に行けますよ。」とあおる。
「いや、もうこの辺で。わからないかもしれませんが、上は結構揺れています。」とKさん。

それでも限界まで上がっていき、
「揺れてる揺れてる」と危機感を堪能した後で、昇降機を下ろした。

他の桃農家では、まずもって、所有していない機械なので、貴重な体験をさせてもらった。

ふとその視線の先に、見慣れない風景に気づいた。
桃のまだ若い木があったところがぶどう棚になっている。

「正孝さん、あれは何か新品種ですか!?」

正孝さんは、通販のスタッフさんと、3本だけ残った黄金桃の前で話していた。

「あれは、”BKシードレス”と”甲斐の黒丸”っていう品種。摘粒をしなくて良いって言うんで、植えてみた。」

後で調べてみると、山梨の推奨品種だそうで、摘粒が不要とは全く書いてなかったが、なかなか優秀そうな大粒ブドウ品種。
楽しみである。

正孝さんから「バスの運転手さんに電話して、こちらの畑まで来てもらったら。」と提案があり、さっそく運転手さんに連絡。移動を快諾してくださった。
一応、わからないとまずい、と思い、誘導した少し大きな通りまで、大森が出ていくと、すぐにバスが現れた。
じゃあ、みんなを呼びに行こう、と思うが早いか、私が向かう方向から、白い軽トラが猛スピードでやってくる。

「ちょっと小梅をとってきます!」
「え、バス、もう来てますけど!」

通販のスタッフと息があったのか、正孝さんは、一緒にご自宅の畑の垣根部分に戻り、小梅を収穫してくださった。
高橋さんはもう収穫しないそうで、とってもらったらありがたい、とのことだった。

「梅酒、梅酒。」と喜んで収穫する通販スタッフ…。

「バスで、みんな待ってますから、そろそろ…。」と促し、バスが待ってくれている場所に戻った。
全員着席済み。

「じゃあ、皆さん、楽しかったですか!」
「ハイ!」
「じゃあ、新宿に向かいましょう!」

帰りのバスでは、北海道余市の安芸さんのワインも振舞われ(研修に先立ち、スタッフの一人が北海道を回っていたので、そのお土産だった)、睡眠をとる方、大富豪に興じるもの、バス酔いしてしまった人。
火曜日の夕方、高速道路は渋滞も無く、快調で、1時間半で、新宿西口のセンタービル前に着いた。

6月6日 17時45分。
無事に、旅程を終え、ほっとした。

「じゃあ、社長、一本締めを。」と促され
「よぉー」
「パン!」と22の手がなった。

ようやく実施できた研修旅行。
少し達成感があった。

「さ、息子どものお迎えだ。」
19時までに保育園、19時半までに長男が通う学童に迎えに行かなくてはならない。

皆で余韻にも浸りたかったが、明日が朝早いシフトの人も多いので、そのまま解散となった。

中央線に乗り、空いていた席に座る。
長い長い6月6日が終わった。

※りょくけんとお付き合いするようになってからか、葉の色を見て、肥料の量を調整するようになった、とも言っていた。隣の畑の葉を見て、これは窒素分を入れすぎ、とも話していたので、無尽蔵に施肥をやっていたわけではない。